新人魔女と襲撃者(1)
新人魔女のリッカは天井が高くて広い豪華な客間でのんびりと一人の時間を楽しんでいた。
「はぁー、今日もいい天気だ」
空は雲一つない晴天。小鳥たちの囀りが耳に心地よい。昨日起きた些細な出来事などまるでなかったかのように、清々しい気分にさせてくれる。リッカはバルコニーに設られたテーブルにお茶を用意してもらい、そこでお茶を楽しみつつ滅多に見られない景色を堪能していた。
眼下に広がるのは手入れの行き届いた美しい庭園。その向こうに広がる街並みも見晴らしが良くて解放感がある。街並みの先には陽の光を受けて輝く湖面。どこまでも見渡すことができるその景色にリッカは息を漏らした。そんな美しい光景を目に焼き付けようとリッカはティーカップを置くと席を立つ。
「んーー!」
バルコニーの柵に手をかけ空を仰ぐように大きく伸びをするリッカの頬を風が優しく撫でていく。リッカは僅かに目を細めその風に身を任せる。
「平和だなぁ」
心地よい風とゆったりとした時の流れを全身で感じていると、足下から食い意地のはった可愛らしい声が聞こえてきた。
「美味しそうなクッキーの匂いがします」
そう言って足下に現れた使い魔のフェンをリッカは優しく抱き上げる。フェンは大人しく抱き上げられたものの少し不満げな顔をリッカに向けた。
「どうしてクッキーがあるのに僕を呼んでくれなかったのですか?」
「ごめんごめん、そんな目で見ないで」
そう言いながらリッカはフェンを優しく撫でる。すると、フェンは先ほどの不満顔から一転、気持ちよさそうに目を細め撫でられるがままになる。
「ほんとごめんね。素敵な景色につい夢中になっちゃって」
リッカはテーブルに用意されていたクッキーを数枚手に取ると、そのうちの一枚を使い魔に与えた。
「わぁ、美味しいです!」
あっという間に一枚を平らげ、尻尾を振りながら次を催促する食いしん坊な使い魔にリッカは思わず笑みをこぼす。
「もう、食いしん坊さんなんだから」
リッカはそう言いながら、フェンを腕から降ろす。そして、手に持っていた残りのクッキーを使い魔の側に置いた。
「全部頂いても?」
「ふふ。いいよ」
「ありがとうございます!」
フェンはクッキーを嬉しそうに食べ始めた。リッカも席に着き、お茶を一口飲むと机上のクッキーに手を伸ばす。
「ねぇ、フェン」
「何ですか? リッカ様?」
「平和だね」
リッカの言葉にフェンは首を傾げる。その仕草はまるで人間のような愛らしさがあった。