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新人魔女と皇太子の婚約者(8)

「先生が仰る通り私はまだまだ未熟者。今後も精進していく所存でございます」

「ふむ。相変わらず頭が堅いようだ」


 そう言いながらも、マリアンヌはむしろエルナのそういった慎ましい態度を好ましく思っているのかニコリと微笑んだ。


「まぁ、舞踏など出来ずともよい。それなりの立ち振る舞いと貴族としての素養があれば、まずは及第点と言えよう。して、その素養だが……」


 マリアンヌはエルナをじっと見つめる。エルナも真っ直ぐにその視線を受け止めている。その表情は互いに真剣で、ただならぬ雰囲気に側で控えているリッカの背中にも汗が伝う。その場の全員が固唾を飲んで見守る中、マリアンヌが静かに口を開いた。


「エルナ嬢、貴女が皇太子妃になったとして、この国はどう変わる?」

「国がどう変わるか……」


 エルナは僅かに視線を落とし考え込むと、再び顔を上げマリアンヌを真っ直ぐ見据えた。そしてゆっくりと口を開く。


「……国は……変わりません」

「それはどういうことだ?」


 エルナの答えにマリアンヌは怪訝そうに聞き返した。エルナはきっぱりとした口調で続ける。


「皇太子妃として(わたくし)に何ができるか、それを今日まで考えました。民の暮らしを良くしたい。貴族制度を変えたい。そんなことをいろいろと考えました」

「その答えが、変わらないなのか?」

「はい」


 エルナの言葉を聞いたマリアンヌは眉を顰めた。


「それは、貴女は国のために力を尽くさないと言うことか?」

「いいえ。そう言うことではございません」

「では、どう言うことなのだ?」


 エルナの答えに国王は難しい顔で腕を組む。その場にいる誰もがエルナの真意を測りかねて答えを待つ。そんな中、これまでエルナと共にミーナの店で貴族教育に励んだリッカだけはエルナの意図をなんとなく理解していた。そして、エルナの回答を待つ。


(わたくし)に出来ることは、ほんの些細なことなのです。これまで国政に関わってこなかった者が民のためにと声をあげたり、貴族制度を変えるべく奮闘することはかえって国を掻き乱すことになりましょう。私が為すべきことは、為政者となる陛下とネージュ様が正しく国政にお心を砕くことが(かな)うようお支えすること。ひいてはそれが民のためとなりましょう」


 エルナはそこまで言うと一度言葉を止め、そして優しく微笑んで見せた。その笑顔はこれまでの緊張や不安など微塵も感じさせず、それでいて慈愛に溢れていた。リッカにはそんなエルナの姿がとても眩しく思えた。

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