新人魔女と皇太子の婚約者(7)
「もう良い。其方のその振る舞いは、自分の立場を理解した上だと信じよう」
「ご理解いただき感謝いたします」
リゼはそう言って恭しくお辞儀をする。それには目もくれず、新国王マリアンヌは再びリッカたちの方に向き直る。
「よく来てくれた。まもなく即位式が始まる。時間はそうありません。しかし、話をせねばなるまい」
国王の視線はリッカと母ロレーヌの間に立つエルナに向けられていた。
「……はい……」
エルナは緊張を隠しきれない様子で返事をする。声が微かに震えているのが分かる。義両親、義妹そして未来の婚約者が見つめる中、エルナは一歩前へ進み出ると、ドレスの裾を少しつまみゆっくりと腰を落としてお辞儀をした。
「エルナ・スヴァルトにございます。この度の御即位、誠におめでとうございます」
顔を上げたエルナは緊張した面持ちながらも微笑んで見せた。その姿は初々しくもどこか儚げで、その場にいる者たちの視線を釘付けにした。そんなエルナに新国王は一瞬優しい笑みを見せる。
「そう固くならずともよい。知らぬ仲でもないのだから」
マリアンヌの言葉にエルナは小さく頭を振る。
「いえ。エルナ・スヴァルトとしては初めてお目にかかりますゆえ」
「そうか」
リッカの目には、心なしか新国王が楽しそうにしているように見えた。
国王は腕を組み何かを考えるように目を瞑る。そして数秒の後、再び目を開いた時には真剣な眼差しでエルナを見つめていた。その眼差しに、その場にいる者たち全員が思わず姿勢を正す。そんな空気の中、国王はゆっくりと口を開いた。
「では、エルナ・スヴァルト嬢、此度の話が持ち上がってから準備期間が短い中、貴女は良く努力していたと聞いている」
国王の言葉にリッカは内心で首をかしげる。一体誰が報告したのだろうか。一番可能性があるのは父だが、食事の時くらいしか顔を合わせない父に何が知れるというのだろう。そんなリッカの疑問は、次のマリアンヌの言葉ですぐに解消された。
「あの者は長年王族を教育してきただけあって口煩くはあるが、その分、見る目は確かだ。日々の成長ぶりには目を見張るものがあると貴女を高く評価していた。まぁ、舞踏の腕前はまだまだという評価ではあったが」
エルナは静かに目を伏せた。まるで国王の言葉を噛みしめるように。それからゆっくりと視線を国王へ向けるとふわりと微笑んでみせる。その瞬間、国王は僅かに目を見開き小さく息を呑んだようにリッカには見えた。