新人魔女と皇太子の婚約者(5)
リッカは周囲の視線を気にしつつ、リゼに小声で話しかける。
「こんな所にいて良いのですか?」
しかし、当のリゼは周囲の視線やざわつきなど気にする様子もない。相変わらず無表情のまま、リッカの質問に対して「問題ない」と短く答える。
「いやいや。現に注目を集めていますし、問題ないわけないと思うのですが」
リッカはそう言いながら辺りをキョロキョロと見渡す。好奇の目に晒されるこの状況は非常に居心地が悪い。挙動不審になっている自覚はあるが、落ち着かないものは落ち着かない。だが、そんなリッカの様子など気にも留めず、リゼは平然と話を続ける。
「エルナさんと母君はどこにいる? 陛下がお呼びだ」
「わ、分かりました。母とお姉様にはすぐに伝えますので、リゼさんは広間の外で待っていてください」
「何故だ?」
リッカとしては目立つことこの上ないので、できればリゼには早く退散してほしいというのが本音だ。しかし、そんなリッカの気持ちをリゼは汲み取らない。
「何故って……その……目立ちますから」
「別に構わぬ」
「いや、構いますって!」
そんなやりとりをしている間に、談笑の輪から抜け出した母ロレーヌとそれに付き合わされていたエルナが、リッカとリゼの元へとやってきた。
「まぁ、リゼラルブ様。ご機嫌いかがですか? 本日のお召し物もとても素敵ですわね。どちらの仕立て屋でお仕立てになられたのかしら?」
ロレーヌがおほほと優雅な笑みを湛えながらも、どこか圧を感じさせる勢いでリゼに向かって話しかける。リゼも一瞬ロレーヌの勢いに押されるが、すぐに微笑を浮かべ返事をした。
「お褒めいただき光栄です。お二人もいつにも増してお美しい」
「あら? 嬉しいことを仰ってくださるのね。うふふ」
リゼの言葉に嬉しそうな笑みを見せるロレーヌは、隣を歩く美男子と楽しげに言葉を交わしながら、さりげなく広間の出口へと歩み寄る。リッカとエルナもそれに倣って、母の後を追随する。まるで、おしゃべりに夢中の母に困っている風を装って。
そうして広間に集まる貴族たちから注がれる視線と囁き声に内心冷や冷やしながらも、一行は何食わぬ顔で大広間を後にした。
広間を出ると即座にロレーヌが頭を下げる。
「広間からスムーズに抜け出すためとはいえ、大変失礼な態度をとってしまいました。お詫び申し上げます」
リッカとエルナも続いて頭を下げる。それをリゼは「構いません」とだけ短く答え、そのまま城の奥へと歩き始めた。