新人魔女と皇太子の婚約者(3)
「あら? でも素敵ですよ」
そんなリッカを見てエルナはクスクスと笑う。
「自信をお持ちください。ドレスはもちろん、その髪型もメイクもとても良くお似合いです」
「本当ですか? なんだか自分じゃないみたいで……」
リッカは頬に手を当て、恥ずかしそうに俯く。エルナの優しい眼差しに気がついたリッカは耳まで真っ赤になった。それを誤魔化すかのように幾分大きな声を出す。
「そ、それより! お義姉様こそ……とても素敵です!」
「あら? ありがとうございます」
エルナは若草色のAラインのドレスを纏っていた。スカート部分は細かいプリーツになっており、胸元と裾には同色の金糸と銀糸、それからビーズで細かな刺繍が施されている。首元には琥珀色の大きな飾り玉がついており、そこから長い緑色のリボンが垂れ、腰の位置で大きく結ばれている。エルナの髪色とドレスの色が絶妙に合っていた。サイドで纏めた栗色の髪は大きなウェーブを描き、所々に小さな青い花をあしらった髪飾りがつけられている。まるで花の精を思わせる。リッカとは違った意味で大人っぽい装いだった。
「お義姉様、本当に綺麗です……」
リッカはエルナの姿を見て思わずそう呟いた。お世辞でも何でもなく本心だった。本当に見惚れてしまうほどに綺麗だったからだ。そんなリッカの言葉に少し驚いたような顔をしたエルナは、嬉しそうに微笑むと小さな声で答えた。
「ありがとうございます……」
リッカはうっとりとした表情でエルナを見つめた。その眼差しをくすぐったそうに受け止めながらエルナは笑う。
普段とは違う雰囲気を纏った義姉の姿に、リッカは思わず見とれてしまった。義妹があまりにも熱心に見つめてくるものだから、エルナは耐えきれず声をかける。
「あ、あの……リッカさん……」
「あっ! すみません! いつもと雰囲気が違うので、つい……」
我に返ったリッカは焦って頭を下げる。その慌てふためく姿が可笑しくてエルナはさらに笑った。
「実は私も少し落ち着かないのです。ですからあまり見ないでくださいな」
「でも、すごく似合ってますよ。なんていうか……妖精のお姫様みたいです! リゼさんが見たらきっと驚きますよ」
「まぁ! 妖精だなんて。リッカさんたら」
少し大袈裟な表現に、エルナは戸惑いながらも嬉しそうに微笑む。
二人がそんな会話をしていると、出発の合図がかかった。父と母を乗せた馬車が先に動き出す。それに続いて、二人を乗せた馬車もゴトリと動き出した。