新人魔女と皇太子の婚約者(2)
母ロレーヌは美しいものが大好きだ。そして自分の美しさを際立たせる装いにも並々ならぬこだわりがあるらしい。
そのせいか、娘の服装についても非常に厳しい。常日頃リッカが身に付けるものについては諦めているようだったが、今日のような人目のある場所に着ていくものについては、母が納得しなければ許可が下りないのである。
リッカは鏡に映る姿をもう一度まじまじと見つめる。少し長めのドレスはマーメイドラインになっており、動くたびに足下がふわふわと揺れて綺麗だし、腰のリボンも可愛らしい。だが、身体のラインにぴったりと沿うように仕立てられたドレスは、背中と胸元が開いたデザインになっていて、そのせいかとても大人っぽく見える。
こんなに露出の多いドレスで人前に出るなど、考えただけでも気が滅入る。リッカは自分の服装を改めて見直して溜息をつく。どう考えてもこんなドレスを自分が着こなせるとは思えなかった。他の服にしておけば良かったと後悔しても遅いのだが、そう思わずにはいられない。
母がリッカにこんなドレスを着せる訳はもちろん分かっている。次期当主であるリッカのお披露目、つまり結婚相手を募るためだ。普段のお茶会に顔を出したがらないリッカに頭を悩ませていた母が、これ幸いとばかりに強行手段に出たのだ。
リッカはもう一度大きく溜息をつく。だがしかし、今日は自分が主役ではない。主役はあくまでも師匠であるリゼであり、婚約者となる義姉のエルナである。自分はただその場にいればいいだけ……そう自分に言い聞かせてなんとか気持ちを奮い立たせる。
「そろそろお時間です」と使用人に声をかけられたリッカは物思いから我に返り慌てて頷く。
「わ、分かりました!」
リッカはもう一度鏡の中の自分をチェックしてから、最後に正装用のローブを腕にかけ部屋を出た。
玄関前には馬車が待機しており、リッカはそれに乗り込む。車内では義姉が既に待機していた。
「お待たせしました」
リッカが声をかけると、エルナは読んでいた本から顔を上げ優しく微笑んだ。
「まぁ、素敵!」
リッカのドレス姿を見たエルナは感嘆の声を漏らす。リッカは照れ臭そうに笑い、少し肩をすぼめた。
「ありがとうございます。でも……なんだか落ち着かないです。いつもと違って首筋がスースーしますし」
リッカの髪は、頸から背筋にかけて綺麗に見えるようにと結い上げられている。リッカは指先で首筋を触りながら、少し困った顔をした。