新人魔女の初報酬(6)
リゼはそんなロレーヌの様子にクスリと笑うと、やんわりとその申し出を断る。
「お茶のお誘いは大変に嬉しいのですが、このあと陛下と約束がありますので、本日はご遠慮させていただきます。王宮へ向かう途中に立ち寄らせていただいただけなので」
リゼの言葉にロレーヌは心底残念そうな表情を浮かべた。少し前まではリゼに対して「大賢者だ」「皇子だ」と緊張していたはずだが、今はそんな様子は全くない。それどころか、大切な息子だと言わんばかりにリゼを家族のように慕っている。
母の様子をリッカが呆れながら見ていると、不意にリゼがリッカの方へ向き直る。
「例の魔石はどうなった? 出来ている分があれば、王宮へ行くついでに納めてこようと思うのだが?」
「作業はほとんど終わっています。取ってくるのでちょっと待っていてください」
リッカはそう答えると屋敷の中へ駆け込んでいく。しばらくの後、再び庭先へ戻ってきたリッカは小さな袋をリゼに手渡した。リゼはその中を確認すると少々意外そうな顔をした。
「水魔法石が五十個、火魔法石が二十五個、風魔法石が十五個、そして雷魔法石が十個。合わせて百個の魔法石の充填が完了しています」
「そうか。思ったよりも完了しているな。もう少し数が少ないかと思ったが。……ご苦労だった」
珍しく素直に労いの言葉をかけるリゼにリッカは大いに驚きそれから照れたように笑う。
「いえ、大したことありませんでした。残りも数日中に完了すると思います」
「これだけあれば当面は大丈夫だろう。残りは急ぐことはない。それでは、これを」
そう言うとリゼは懐から小さな袋を取り出しリッカへ手渡した。そのずっしりとした重さにリッカは驚いて思わず中を覗き込む。すると、中には大量の金貨が入っていた。
「な、なんですかこれはっ?」
「王宮から支払われる魔石充填の手間賃だ」
こともなげに答えるリゼの言葉に、リッカは慌てて首を大きく左右に振る。途方もない大金に恐れ慄くリッカを見て、リゼは呆れて息をついた。
「今回の仕事のほとんどを君がやったのだ。報酬として受け取って然るべきだ」
「報酬?」
リッカの問いかけにリゼは頷く。
そう言われても、リッカにはいまいちピンと来ない。確かに魔石充填を生業にして生計をたてている者もいるが、自分はリゼの仕事を手伝っただけにすぎないし、そもそも自分が望んでやらせてもらったのだ。報酬をもらおうなどとは、リッカは最初から考えてもいなかった。