新人魔女の初報酬(5)
その微笑みにドキリとしたリッカは慌てて首をぶんぶんと振る。
「……いえ、わたしは何も。すべてはリゼさんの計略です」
リッカの返答に、エルナはクスリと笑う。
「計略……確かにその通りかもしれませんね」
互いにクスクスと笑いあっていると、視界の端に何かを捉えたリッカが不意に中空へと視線を投げた。リッカの視線の先を追うようにエルナも窓の外へ視線を移す。澄んだ青空の中に小さな点が見えたような気がして、エルナがそれに注視していると、リッカがおもむろにエルナの手を取った。
「お姉様、少しお庭に降りてみませんか?」
「え? ええ」
唐突な提案に驚きながらも、エルナは素直に頷きリッカに手を引かれるように部屋を出ていく。
二人が庭先へ出たときには、先ほどの小さな点が正体を目視できるほどに近づいてきていた。そしてそれが白馬だと分かりエルナは驚きの声を上げる。
「まぁ! あれは……」
そんなエルナの驚いた声に応えたのは隣に立つ義妹ではなく、たった今空から舞い降りた白馬に跨っていた人物だった。
「お元気でしたか? エルナさん」
空から舞い降りた白馬の騎手は優雅に馬から降りると、恭しく頭を垂れる。彼のそんな姿にエルナは驚きを隠せないでいた。
「ネージュ様。一体どうされたのですか?」
エルナの問いにリゼは少しだけ顔を曇らせ、申し訳なさそうな表情で小さく笑った。
「突然の訪問で驚かせてしまったかな」
「いえ、それは構わないのですが……。本日はどのようなご用向きでこちらへ?」
エルナの問いにリゼは少しだけ頬を染め、言いにくそうに目を伏せる。そんな恋する少女のような可愛らしい仕草から、リッカはすぐに大賢者の目的を察した。
「もしかして……リゼさんはお姉様に会いにみえたのではありませんか?」
リッカの指摘にそうなのかと問いたげにエルナが小首をかしげると、リゼの頬はさらに赤く染まる。
「君は相変わらず余計なことを言う」
照れ隠しなのか少し怒ったように呟くリゼをリッカとエルナがコロコロと笑いながら囲んでいると、屋敷から母ロレーヌが転がるように飛び出してきた。
「大賢者様。ようこそいらっしゃいました。本日はいかがされましたか? ……いいえ。用向きなどなくても良いのです。お茶でもご一緒にいかがです? ねぇ、貴女たちもいいわよね?」
母の言葉にエルナとリッカは顔を見合わせる。リゼの突然の来訪に顔を顰めることもなく、どことなく浮かれている様子の母の姿に二人は苦笑した。