新人魔女の初報酬(4)
「お姉様、この度はおめでとうございます」
突然の義妹からの餞の言葉にエルナはなんのことかしらと言いたげに首をひねる。
「まだご婚約のお祝いを申し上げていなかったと思いまして」
「まぁ!」
リッカの言葉にエルナは嬉しそうに顔を綻ばせた。
「ありがとうございます、リッカさん。でも、まだ正式に決まったわけではないですから。陛下の最終ご判断を待って、それから……」
「でも、リゼさんのお隣にはお姉様が一番相応しいですから。もう決まったようなものですよ」
リッカの率直な言葉にエルナは少しだけ頬を赤く染める。
「そうでしょうか?」
照れ隠しのように微笑むエルナに、リッカは大きく頷く。そして少し遠くを見つめ直した。
「でも……少し寂しいですね」
「え? それは……」
「だって! せっかくこうしてお姉様と姉妹になれましたのに、あまり一緒にいる時間がありませんでしたから」
どういう意味なのかと問おうとしたエルナの言葉に被せるようにして、リッカが間髪入れずに言葉を返すと、エルナは少し驚いたような表情を浮かべた。しかしすぐにその目を柔らかく細める。そして小さく頷いた後、少し悪戯っぽい表情でリッカに笑いかける。
「そうですわね。……でも、明日陛下に認められたとしても、すぐにこの家を出ることにはなりませんよ。婚姻の儀はもう少し先になるはずですから」
エルナの言葉にリッカはアッと声をあげる。
「あ! ……そうですね」
そして慌ててペコリと頭を下げた。
「も、申し訳ございません。わたしったらつい……」
「でも、寂しいと言っていただけるなんて姉冥利につきますね」
ふふっと笑いながら、エルナは窓の外へ目を向ける。
「リッカさん、この度はご尽力いただき本当にありがとうございました」
不意にエルナの口から感謝の言葉がこぼれた。思いがけない言葉にリッカは驚きの表情でエルナを見る。
義姉の視線は窓の外をただ静かに見つめていた。その横顔はとても幸せそうでいて、それなのにどこか寂しそうにも見える。
リッカはドキリとした。夜明けの空の下、国王の弔いを終え遠くへ思いを馳せていたリゼの横顔を思い出したからだ。二人の顔立ちは似ていないのに、何故かその面影が重なる。リッカは不思議な気持ちになった。
リッカは改めてエルナの横顔をじっと見つめる。遠くを見つめるその顔は、凛としていて近寄りがたい雰囲気すら感じさせた。リッカの視線を横顔で感じたエルナはゆっくり振り返り、少し首を傾げる。