新人魔女の初報酬(1)
新人魔女のリッカは自室の窓から外を眺めている。天気が良いので窓を開け放しているが、街の喧騒は聞こえない。リッカの部屋には、静かに時が流れていた。リッカは窓の縁に手をかけると、少し身を乗り出すようにして外を眺める。眼下に広がる街並はいつもと同じはずなのに、今日は少し違って見える。それはあの噂のせいだろう。実際には噂などではなく真実なのだが。
リッカは、ふぅと一つため息をついた。丁度その時室内にノックの音が響く。「どうぞ」と返事をすると、エルナが静かに入ってきた。エルナはリッカと目が合うと柔らかく微笑む。そんなエルナを見て、リッカも自然と笑顔がこぼれた。しかし、すぐにその笑顔を曇らせる。
「街が静かですね」
窓辺に立つリッカはそっと隣に立ったエルナに話しかけた。エルナも街の様子を眺めて小さくため息をつく。
街は今、国王崩御の悲しみの中にいる。それは昨日のことであった。
ミーナがリッカに商談を持ち掛けている最中に、ミーナの夫であるジャックスが血相を変えて店に飛び込んできた。
「おい、大変だぞ!!」
「一体どうしたの? あなた、仕事中でしょ?」
ミーナが困惑気味にジャックスに声をかけると、ジャックスは鼻息荒く
「そんな場合じゃない!」と言い捨て捲し立てた。
「国王陛下が崩御されたらしいぞ!」
どうやら国王崩御の噂が、街中に広まったらしい。それを聞きつけてジャックスは慌てて店に来たということだった。その話を聞いたミーナは「まぁ」と驚きと哀悼の入り混じった声を上げる。ジャックスによるとその知らせを受けてからというもの街は大騒ぎだそうだ。
とうとう来るべき時がきた。リッカとエルナは静かにそっと目を伏せた。
「お二人とも本日はここまでにして、お屋敷へお戻りください。明日いっぱいは国全体が喪に服し、明後日には新国王陛下の即位が発表されるでしょう。それまでは貴族教育はお休みとなるはずですので、ごゆっくりお過ごしくださいませ」
ミーナは困惑しながらも二人に帰宅を促す。
「分かりました」
リッカが素早く荷物をまとめている間に、エルナは椅子からスッと立ち上がるとミーナに向き直り丁寧に頭を下げた。
「ミーナ先生、ありがとうございました」
「ええ。また」
ミーナがニコリと微笑むと、エルナも微笑んで返した。
二人は迎えの馬車を待たず歩いて帰る。街は国王崩御の話題で持ち切りだった。国全体が悲しみに包まれるのはもう少し闇が近づいてからだろう。