新人魔女と薬用スイーツ(8)
それからミーナはコクリとお茶を飲んで一息吐くと、再び口を開いた。
「ところで、リッカちゃん」
「はい、何でしょう」
リッカは自身を見るミーナの視線がいつもよりも少し鋭さを増していることなど全く気付いていないようだ。ジッと見つめてくるミーナの視線にリッカはなんだか少し気恥ずかしさを覚えながらも、目を逸らすことはせずその視線を受け止めた。ミーナは一つ呼吸をすると、とびきりの笑顔を見せる。
「リッカちゃん。うちと取引しない」
突然の言葉に、リッカは目をパチクリとさせる。ミーナの笑顔に少しの圧を感じつつも、言葉の意味が解らず首を傾げる。
「うちにアイテムを卸してほしいの」
「え? アイテム? あぁ、買取ですか? う~ん。今、売れそうなものを持っていたかなぁ」
リッカが戸惑いを見せつつも鞄をあさり始めたのでミーナは慌ててそれを止める。
「違うの、そうではなくて!」
リッカは首を傾げる。ミーナはコホンと咳払いをすると改めて言い直す。
「リッカちゃん、これは商談のお願い」
「商談……ですか? えっと……」
リッカはミーナの真意を測りかねて、助けを求めるようにエルナに視線を向ける。しかし、エルナはニッコリと微笑むだけで何も言ってはくれない。仕方なくリッカは視線をミーナに戻す。その笑顔の中に有無を言わせぬ圧を感じ取り思わずたじろいだ。
「あの……わ、わたしでお役に立てることなら……」
「ありがとう! では早速」
ミーナが嬉しそうに両手を合わせると、リッカはゴクリと息を飲む。
「その氷精花、定期的に卸せるくらい在庫ない?」
「へ?」
ミーナの言葉に、思わず気の抜けた声が漏れた。しかし、そんなリッカを気にも留めずミーナは続ける。
「いや~だって、それ素敵じゃない。素材としてはもちろん観賞用としても。こんなのどこにも売ってないわ。絶対、欲しい人が殺到すると思うの」
「あぁ、なるほど……」
リッカはやっとミーナの言いたいことを理解した。それから困ったように眉尻を下げると、ミーナに向かって頭を下げようとした。
しかし、それは乱暴な音に遮られた。突然、店のドアがバンッと大きな音を立てて開けられたかと思ったら、ドスドスという慌ただしい足音と共にジャックスが姿をみせた。
「おい、大変だぞ!!」
「一体どうしたの? あなた、仕事中でしょ?」
ミーナが困惑気味にジャックスに声をかけると、ジャックスは興奮して鼻息を荒くしながら言葉を吐き出した。
「そんな場合じゃない!」