新人魔女と薬用スイーツ(5)
リッカはビシッと右手の人差し指を立てた。
「そこでこの花です!」
「どういうこと?」
ミーナが首を傾げる。エルナは二人の様子を見て、なんだかおかしくなってきたが顔に出さないように努める。そうしているうちにも、興が乗ってきたリッカの説明は続く。
「要は、加工工程を極力減らせば、苦み成分の増幅を減らせるのです」
ミーナは全く意味が解らないと首を傾げる。リッカの説明にミーナが混乱の意を見せると、リッカはビシッと指を立てていた右手を開き、掌をエルナに向けた。
「ではお姉様。この花の特徴を覚えていますか?」
突然に指名をされたエルナは、思わず目をパチクリとさせる。しかし、そこはさすがはエルナだ。すぐに気を取り直して、リッカの問いに答える。
「えっと……雪の中でしか咲かない……だったかしら」
「はい! その通りです。つまり、雪の中でなかったら」
エルナの言葉にリッカは大きく頷いた。「なるほど、そうなのか」とミーナは内心で感心しながら、話題の中心である氷精花へ目を向ける。先ほどは気がつかなかったが瓶の中をチラチラと何かが舞っていた。ジッと目を凝らし、その物体が雪だということに気がつく。
「これは雪?」
話しの腰を折るようで申し訳なかったが、ミーナは思わず疑問を口にした。
「そうです。花が枯れて溶けてしまわないように凍結させた上で、瓶には氷魔法を施して常に雪が降るようにしてあります」
「まぁ、そんなことが出来るなんて」
ミーナは驚いてまじまじと瓶の中身を見つめる。この瓶は一体どれ程の魔力が込められた代物なのだろうか。水晶のような氷でできた花、雪を降らせる瓶……。自身には馴染みのないそれらを然も当たり前のように扱う年若い目の前の少女をミーナは改めて興味深げに眺める。講義に熱中しているリッカは、そんなミーナの視線には全く気がつかない。
「先ほど言ったようにこの花は、雪の中になければ枯れて溶けてしまうのです」
「簡単に溶けてしまうようでは、扱いが難しいのではない?」
ミーナはリッカを試すように見つめる。
「ええ。この花の原型を留めようと思えば扱いの難しい素材になりますが、今回の場合は溶けてしまって良いのです」
リッカの説明にミーナはハッとする。
「勝手に溶ける分には、加工しているわけでは……ない?」
「はい。そういうことです。手を加えていないので、むやみに苦み成分を生成することにはなりません。ですが、薬効自体はその水分中に残ります」