新人魔女と薬用スイーツ(4)
しかし、とエルナの話を聞きながらミーナは難しい顔をする。なぜなら、薬とスイーツは全く異なるものだからだ。薬は苦く、スイーツは甘い。ミーナがその疑問を口にすると、リッカが口を開いた。
「そうなんですよ。薬と言われる大体のものには苦みがあるんです。甘いスイーツに入れたからと言って、実はその苦みが薄れるわけではないみたいで。ラウルさんが試してみたら、逆に苦みが増幅してしまったみたいなんです」
リッカの話にミーナは大きく頷く。それはそうだろう。良薬口に苦しという言葉があるくらいだ。苦みは薬にはつきものなのだろう。そうなると目の前にあるこの試作スイーツは、苦いということだろうか。ミーナは不安になりながらも、スイーツへと視線を移した。するとその様子を見ていたリッカが悪戯っ子のような笑みを浮かべる。
「そこで、これの出番です!」
リッカは瓶に入った氷精花を指さす。
「氷精花は先ほどミーナさんが仰ったように止血剤や鎮静剤などに使われることがほとんどですが、それは採取後に様々な工程を経て作られたものなのです。実は氷精花はそのような加工をせずに摂取しても薬効を得られる花なのですよ。まあ、そのままでは加工された薬よりも効力は弱いのですけれど」
「そうなの?」
ミーナは首を傾げる。そんな話は初めて聞いた。そもそも植物を加工もせずそのまま摂取することなど考えたことがなかった。ミーナの問いにリッカはコクリと頷く。
「氷精花は、実は万能薬なのです。それぞれの薬を持ち歩かずとも、これがあればどんなことにでも対処できます」
リッカは何故か胸を張る。余程氷精花に思い入れでもあるのだろうか。
「氷精花に限ったことではありませんが、薬が苦いのは加工過程で苦み成分が増してしまうからです。普段薬を造らない人には知られていないことですが、手間をかければかけただけ薬は強力な効力を有します。そしてその分苦くなるのです」
「まぁ、そうなの? そんなこと全く知らなかったわ」
ミーナは素直に感心した。エルナも真剣な顔でリッカの話を聞いている。いつしか、そこはリッカの講義室のような雰囲気になっていた。
リッカの話は続く。
「だから、苦み成分が嫌なのであれば、原材料である植物を摂取するに限ります。しかし、瀕死に陥っている冒険者でもなければ植物をそのまま摂取するなんてことは、誰もしません」
リッカの言葉にエルナもミーナも、尤もだと言わんばかりに首を縦に振る。