新人魔女と薬用スイーツ(3)
リッカは興奮したように、ラウルの店でスイーツを見た時のことを語り出した。ミーナはそんなリッカの話に相槌を打ちながらも視線はテーブルの上のプルンとしたスイーツに釘付けだった。
「それじゃあ、これはスライムに似せてはいるけれど、スライムではないということ?」
ミーナがそう尋ねると、エルナが口を開いた。
「そのようです。原材料は氷精花だそうです。こちらの薄皮は、その氷精花の茎から採取した繊維から出来ているそうですよ」
「氷精花?」
さすがは色々なアイテムを取り扱っている雑貨店の店主。氷精花ももちろん知っていた。
「確か、治癒力を高める効果がある花よね。止血剤や鎮静剤なんかの原材料として使われている……」
リッカが「そう、これです」と言って、いつも肩から下げている鞄から小さなガラス瓶を取り出した。綿帽子のようなふわりとした小さな白い花の周りを、水晶でできているかのような透明に近いブルーの花弁が包み込んでいる花が入っている。
「あら? なかなか原型のまま持ち歩くのは難しい素材だったはずだけど、わざわざ買ってきたの?」
「いえ。これは、先日わたしが採取したものなんですよ」
「先日? 採取? それはいつ頃の話かしら? だって、氷精花はすぐに溶けてしまうでしょ。それを鞄に入れて持ち歩くだなんて……ま、まぁいいわ。その件についても気になるところだけれども、まずはこのスライムについて話を聞きましょう」
ミーナの表情に一瞬商談者の片鱗が現れたが、今はそれよりも目の前の不可思議なスイーツへの好奇心の方が勝ったようだった。
エルナは、スイーツ店の店主ラウルがなぜ氷精花をベースにこのスイーツを作ったのかを説明し始めた。
「実は少し前からラウルさんは薬用スイーツが作れないかと考えていたようなんです」
「薬用スイーツ?」
「ええ。ラウルさんのお店に来るお客様の中に、お子様の発熱にお困りの方がみえたそうなのです。その御宅のお子様は体があまり丈夫ではないようで、しばしば発熱するのだとか。それで、お薬を飲ませようとすると、酷く嫌がられてしまうので困っているというお話をお客様からお聞きになって、それからラウルさんは、薬の代わりになるスイーツが作れないかと考えていたそうです」
エルナの説明にミーナはなるほどと頷く。大人になるにつれ薬を躊躇なく服用できるようになったが、確かにミーナ自身、子どもの頃は薬が苦くて我慢して飲むのが嫌だったことを思い出す。