新人魔女には少し難しい助言の話(4)
リッカをまじまじと見る。そんな視線を受けて、リッカは苦笑した。
「まぁ、まだまだ先のことですけどね」
リッカはそう言うが、その言葉には何か含みが感じられた。ミーナはもう少し深く二人に尋ねたいような気もしたが、これ以上は話せないのだと二人の眼差しが物語っている。そんな雰囲気を察したミーナは少し話題をそらすことにした。
「なるほど。それで、エルナ様は貴族と平民の垣根を無くすことや、平民の暮らしに興味をお持ちなのですね」
「え?」
「ネージュ様のお手伝いをして工房を盛り立てたいとお思いなのでしょう?」
エルナは驚いたような表情を浮かべた。ミーナの指摘は実は少し的外れなのだが、それでも、ネージュを陰で支えたいという思いがあることには違いなく、エルナは少し恥ずかしそうに頬を染め、コクンと首を縦に振った。
「ええ。でもそれには、これまでと違う世界を知ることが必要だと思いまして」
背筋を正してそう答えるエルナを見て、ミーナはなるほどと頷いた。勤勉で礼儀正しいエルナだからこそ、あの気難しいネージュ・マグノリアが心を許したのかもしれない。ミーナはそう納得した。
「ネージュ様のお仕事を手伝いたいとのお考えのようですが、エルナ様はこれからどんなことをなさりたいのですか?」
ミーナの突然の質問にエルナは困ったような表情をした。
「ど、どんなことと言われましても。私でも何かネージュ様のお力になれることがあればと、今はまだ模索中なのです」
はにかむ様に答えるエルナにミーナは「あらあら」と少し面白そうに笑った。
「これまでのエルナ様のお話から、何か具体的に目指すものがおありなのだろうと思ったのですが」
「……そ、それは……」
ミーナの問いにエルナは視線をさまよわせた。そんな反応にミーナは瞳を輝かせる。
「うふふ。今は秘密ということですね。でも、一つだけ教えてくださいませ」
エルナの答えを待たずにミーナは続けた。
「エルナ様にとって、ネージュ様はどんな存在ですか?」
思いがけない質問にエルナは目を大きく見開いた。それから少し考えるように目を伏せると、ゆっくりと口を開く。
「私の全てです。あの方のいない世界など考えられません」
はっきりと言い切ったエルナの頬はうっすらと赤く染まっていたが、眼差しには揺るぎない心意が満ちていた。
「まぁ」
その強い想いにミーナは思わず感嘆の息を漏らす。その言葉を側で聞いていたリッカも、エルナを眩しそうに見つめた。