新人魔女と義姉のアルバイト(8)
ラウルの言葉にエルナは驚いたような表情を浮かべた。そんなエルナの反応にラウルは困ったように笑う。
「お茶もスイーツも、実は嗜好品だよね。生活に必要不可欠かと言われたら、そうとは限らない」
ラウルは薬草茶を一口啜り、優しい口調で言う。
「言うなれば、自分へのご褒美だ。僕はそういう物は少し手が届かないくらいでいいと思うんだよ。たまの贅沢。今週は頑張ったからスイーツを食べよう。明日からまたいい気分で頑張るために、今日は奮発していいお茶を飲もう。そういうご褒美があってこそ、日々の生活にも精が出るってものだよ」
ラウルの言葉にリッカとエルナは驚いたように目を見開いた。リッカにとってはお茶もスイーツも、生活の中で当たり前に出てくるものだ。「贅沢」だとか「ご褒美」であるなどと考えたことがない。リッカにはラウルの言葉は驚き以外の何物でもなかった。
エルナにとってもそれは同じだった。少し前までのエルナの立場では、リッカのように貴族らしい暮らしというわけにはいかなかったが、それでも、皇女に仕えていたためにお茶やスイーツは平民よりも身近だった。しかしリッカと違ったのは、貴族と平民の生活レベルの違いを認識していたことだ。だからこそ、エルナは貴族と平民の格差がなくなる方法を模索している。そんなエルナにとって、ラウルの言葉はまさに目から鱗が落ちるような話だった。
「まあ、僕がお金を持っていなさすぎるから、そうやって自身を戒めているのかもしれないけどね」
ラウルは苦笑するが、エルナは首を横に振る。ラウルの考え方はとても新鮮だった。すべてを平等にすれば良いということではない。格差があるからこそ、そこに見出すことができる幸せもある。
ラウルの考え方にエルナが感心していると、ラウルは真っ直ぐにエルナを見据えてこう言った。
「こんな話をしていても、所詮人の幸せは他人にはわからないものさ。でも、スイーツを食べている時は誰もが幸せそうな顔をするんだよ。僕はカウンター越しに見えるお客様のそんな表情を見るのが好きで、だから、少しの贅沢を提供しているのさ」
エルナはラウルとの話の中で自分の考え方が変わっていくのを感じた。
「国の平和と平等。それが皆の幸せに繋がるわけではない……のですね。でも、皆が幸せを感じる瞬間は確かにある。私もラウルさんのように皆の幸せの顔を見られるような仕事がしたいです」
エルナの言葉にラウルは嬉しそうに微笑んだ。