新人魔女と義姉のアルバイト(4)
紅桃茸が香辛料として用いられていることは、もちろんラウルも知っている。しかし、ラウルはスイーツ店の店主だけあって、根っからの甘党だ。あまり辛い物は得意ではない。それを使ったパイとは、考えただけで口の中が痛くなってきた。
「随分と挑戦的な料理をするんだね。紅桃茸のパイがどんな物か気になるところだけど、生憎と僕は辛い物が苦手でね。そのパイにチャレンジする機会はなさそうだな」
ラウルの反応は当たり前のものだった。紅桃茸のパイがまさか甘いなどとは一般的には思われない。そんなラウルの反応にリッカは思わず唇を尖らせた。
「物凄く美味しいんですよ。お姉様お手製のパイも良いですけど、わたしはこのお店でも是非扱って欲しいくらいです」
リッカの反応にラウルはたじろぐ。エルナはそんな二人の様子を見てクスクスと笑った。それからニコリと微笑むと、少し遠慮気味に口を開く。
「ラウルさんが想像されているものとは、だいぶ違うと思いますよ。私もあのパイは是非とも専門店で扱って頂きたいですけれど……、難しいでしょうね。専門店で扱うにはコストがかかり過ぎると思います」
エルナの言葉にラウルは驚いた。辛いものが苦手なため試したいという気持ちは全く湧かないが、思わず興味本位で聞いてしまう。
「そんなに高価な材料を使うのかい?」
「いえ。材料は至って普通ですよ。ただ、紅桃茸の入手にかかる手間とコストを考えると、ほとんどを材料費が占めることになるので、あまり利益は見込めないと思います」
「入手に手間がかかるって……紅桃茸のことかい? あれは一般的な香辛料だから、そんなにコスト的には高くないと思うけどな?」
ラウルが何気なく発した一言にリッカの瞳がキラリと輝いた。それから興奮気味にラウルに詰め寄る。
「やっぱり、ラウルさんもご存じないのですね」
エルナが慌ててリッカを宥めたが、興奮が収まらないリッカはラウルに一生懸命に紅桃茸のことを話し出した。しばらくして、ようやく落ち着きを取り戻したリッカとは対照的に、今度はラウルが興奮したように目を輝かせる。
「目や鼻が痛くなるほどに辛いあの紅桃茸が甘いだなんて……。まだ信じられない。でもそれが本当だとすると、新しいスイーツが作れそうだね」
ラウルの言葉にリッカは嬉しそうに笑った。
「そうなんです! 是非とも、お店で使って下さい。きっと人気が出ますよ」
話しが盛り上がり始めたところで、エルナがやんわりと制する。