新人魔女と義姉のアルバイト(3)
ラウルはそう切り出す。二人はピタリと手を止めると、真剣な表情を浮かべた。
「わたし、この店のスイーツはアップルパイしか食べたことがなかったのですが、どれもとても美味しいです。チョコレートのケーキもすごく濃厚でしたし、ドーナツも軽くて食べやすくて大好きになりました!」
リッカがいの一番に感想を述べる。エルナもリッカの言葉に同意するように頷いた。
「ええ、本当にどれも美味しかったです。それぞれに使用している小麦が違うのかしら? それとも卵かしら? 詳しくは分からないですけれど、もしかして、それぞれのメニューによって材料を変えられているのですか?」
エルナの感想にラウルは感心した表情を浮かべる。
「お、正解だよ。小麦も卵もそれぞれ変えてあるんだ。季節によっても適した材料は変わるしね」
「やはり、そうなのですね。 随分とお手間をかけられているのですね……それがこのお店が人気店になった秘密かしら……」
エルナは心から感動したように瞳を潤ませた。そんな彼女にラウルは照れ臭そうに頭を掻くと、少し困ったように笑う。
「いや、そんな大層なものじゃないさ。ただ僕は、お客さんに美味しく食べて欲しいと思ってやっているだけだから。言うなれば、僕の自己満足だよ」
ラウルはそう言って肩を竦めた。そんなラウルにエルナは首を横に振る。
「いいえ。きっと、ラウルさんのそうしたスイーツに対する情熱は、お客様にも伝わっていると思いますよ」
エルナの言葉にラウルは照れてしまった。「美味しい」という感想はもちろん嬉しいが、自分の行いを肯定してもらえたのは初めてだった。ラウルはなんだか気恥ずかしい思いがした。照れ隠しに話題を変える。
「エルナさんは随分と材料に詳しいみたいだけど、もしかして、お菓子作りが趣味なのかな?」
ラウルの問いかけにエルナは一瞬戸惑うような表情を浮かべた。
「趣味と言いますか……。お菓子作りは好きですが……」
エルナはそこで口籠る。すると、今まで黙々とスイーツを食べていたリッカが会話に加わる。
「お姉様は、お菓子作りもお料理もお上手なんですよ! 先日は紅桃茸のパイを作って頂きました」
リッカは誇らしそうにそう言うとエルナに微笑む。エルナもリッカに微笑み返した。どうやらエルナは料理やお菓子作りが得意なのだと察したラウルだったが、その意外な食材に目を丸くする。
「紅桃茸って、あの香辛料に使う紅桃茸かい? それはまた随分と辛そうなパイだね」