新人魔女と義姉のアルバイト(2)
ラウルは二人の態度に苦笑する。そう。これは貴族教育の一環。二人がどんなにこの店に尽くしても、その分の給料が支払われる事はない。実のところ、ラウルには二人が貴族令嬢である事は伝えられていない。二人はミーナの店の見習いと言うことになっている。そんな見習い二人のために、ラウルはせめてお菓子を食べていいと申し出たのだ。だが、二人は手をブンブンと振って断る。
「そんな……、とんでもないです」
「そうですよ、ラウルさん! これ、商品ですよね。そんな物、頂けません!」
リッカとエルナが全力で遠慮するので、ラウルは思わず頬を掻く。そして、二人を説得するために別の角度から攻めてみた。
「まぁまぁ、二人とも。開店前に味見をして感想を聞かせてよ。スイーツ店では、これも仕事のうちだよ」
ラウルの言葉に二人は再び顔を見合わせる。ラウルはガトーショコラを一つ皿に取ると、リッカに差し出した。リッカは困った表情を浮かべ、エルナに視線を向ける。エルナは仕方ないといった様子でリッカに頷き返した。
それを肯定と受け取ったリッカは、ラウルからガトーショコラを受け取ると、切り分けられたケーキにフォークを入れ一口食べる。甘いチョコレートの香りとしっとりとした食感が口の中に広がった。途端にリッカは幸せそうな表情を浮かべる。
リッカの至福の表情につられて、エルナもシュークリームを一つ手に取る。一口食べると、すぐに幸せそうに頬を綻ばせた。二人はしばらく無言でスイーツを堪能する。
エルナとリッカの反応にラウルは満足したように微笑むと、自分の分のアップルパイを手に取った。味の確認をしながら二人の様子を観察する。スイーツ店の店主であるラウルにとって、二人が本心から美味だと感じているかは見ればすぐに分かる。手元のスイーツを美味しそうに食べるエルナとリッカの表情は嘘偽りのないものだった。ラウルは二人に感想を求める。
「どうだい? 店に出してもいいかな?」
リッカはフォークを咥えたまま、ブンブンと首を縦に振った。エルナも満面の笑みで「とっても美味しいです」と返事をする。ラウルは二人の言葉に頷くと、まだ手をつけていない他のスイーツも二人に差し出す。今度は二人は遠慮する事なく嬉しそうにスイーツに手を伸ばした。そんな二人をラウルは微笑ましいものを見るような目で見ていた。
「さて、じゃあ試食も済んだことだし、開店前に二人の意見をしっかりと聞かせてもらおうかな」