新人魔女と義姉のアルバイト(1)
「おはようございまーす!」
「おはようございます」
新人魔女リッカとその義姉エルナはまだ外が暗い内に商店街のとある店舗へとやって来た。店には既に明かりが灯り、周囲に甘い匂いを立ち込めさせている。
リッカとエルナは店先で挨拶をしながら、厨房にいる店主に声をかけた。店主であるラウルは、厨房から爽やかな笑顔を覗かせると、二人に挨拶をする。
「やあ! 二人ともおはよう。朝早くから悪いね。今日もよろしく頼むよ。……ああ、ミーナさんは店の休憩時に顔を出すって。それまでは何かあれば僕に聞いてくれればいいから」
「はい! よろしくお願いします!」
「よろしくお願い致します」
ラウルはそれだけ言うと再び厨房へ戻って行った。開店までにやることは多い。それでも今日は二人が手伝いにきてくれたので、幾分か楽になるはずだ。ラウルは機嫌よく作業を進める。
厨房から漏れ聞こえるラウルの鼻歌に、リッカとエルナは顔を見合わせ、ふふッと笑い合う。それからエルナとリッカは仲良く開店準備にとりかかった。二人はまず、店内の掃除から始めることにした。それほど広くない店舗だが、食品を扱っているし、飲食スペースも併設しているため、清潔第一なのだと昨日ラウルから説明を受けていた。
二人がかりで隅々まで綺麗にしていく。床を箒で掃き、テーブルや椅子を丁寧に拭き上げる。エルナはこれまでの経験から掃除はお手のものだったし、リッカも工房へ勤め始めてから毎朝工房の掃除をしていたので手慣れたものだ。
厨房の方からは甘いいい匂いが漂ってくる。そんな香りにつられて二人のお腹からぐぅと音が鳴った。二人が互いに照れ笑いを浮かべると、厨房からラウルが顔を覗かせた。
「二人とも掃除は終わったかい?」
ラウルの言葉に二人は頷く。ラウルは満足そうに微笑むと、二人に手招きし厨房へ招き入れた。そこは店内以上に甘い香りが充満していた。作業台の上には出来たばかりのアップルパイが並べられている。それ以外にガトーショコラやシュークリーム、ショートケーキにドーナツなど、様々なお菓子もある。
二人は思わず目を輝かせた。二人にとってこの光景は何とも幸せなものだった。そんな二人をラウルはククッと笑う。
「どれか食べてみるかい?」
その言葉に二人は顔を見合わせ、慌てて二人同時に首を振った。
「遠慮しなくてもいいんだよ。店の手伝いをしてもらっても、ミーナさんとの約束で謝礼は払えないんだから。これくらいは」