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新人魔女の店舗見学(7)

「いい匂い」


 リッカが思わずそう口にすると同時に、腹の虫がグゥと鳴った。昼食を食べてきたばかりだというのに、体は正直だ。エルナとミーナはリッカの腹の虫にクスリと笑い合う。リッカは顔を真っ赤にした。


 ラウルもそんな三人の様子にククッと笑っていると、丁度オーブンのタイマーがなった。ラウルは急いでミトンを手に嵌めるとオーブンを開ける。中からは熱気と共に甘い匂いが溢れ出した。


 オーブンから取り出されたそれは、焼きたてのアップルパイだった。ラウルはそれを丁寧に大皿に載せると、手早く切り分ける。焼きたてだと主張するようにパイ生地がサクッと音を立てる。中からはトロリとしたリンゴのフィリングが溢れ出した。


 ラウルはそれをリッカとエルナ、そしてミーナに配る。間近で鼻腔をくすぐられた三人は思わずゴクリと喉を鳴らした。配られたアップルパイを一口齧り、その美味しさに思わず三人は顔をほころばせる。


 焼きたてのアップルパイはサクサクとした食感で、中のリンゴのフィリングが絶妙な甘さだった。


「やはり、スイート・ミッションのアップルパイは格別に美味しいですね」


 リッカの言葉にエルナは同意するように頷く。


「ええ、本当に美味しいわ。でも……」


 エルナはそう言ってラウルをチラリと見てから小声で話を続ける。


(わたくし)、つい先日、こちらと同じものをいただいたように思うのですけど……」


 エルナの言葉にリッカは()もありなんといった表情を浮かべた。


「正解ですよ、お姉様。これは先日サラ先生がお持ちになったアップルパイと同じ味です」


 リッカの言葉にエルナは驚いた表情を浮かべる。


「まぁ! でも、どうして?」

「たぶんですけど……。あの日、サラ先生は自分の代わりにラウルさんにアップルパイを作らせたのだと思います」

「え? でも、どうしてそんなことを……」

「さぁ? あの人のことだから見栄を張りたかったのではないですか?」


 リッカの推測にエルナは首を傾げながらも頷いた。


「なるほど。そういう事でしたか。それをリッカさんに言い当てられて、あの方はあの様にご機嫌を損ねられたのですね」


 エルナは合点がいったという様に大きく頷いた。それから、少し眉を顰める。


「でも、それではこの店の負担になったでしょうね。見たところ店はラウルさん、お一人で切り盛りしているようですし」


 当人たちは小声で話していたつもりだったが、リッカとエルナの会話は、ミーナにもラウルにもしっかりと聞こえていた。

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