新人魔女の店舗見学(6)
リッカとエルナはまだ事態が飲み込めていない様だった。二人は歩きながらミーナに尋ねる。
「それで、私たちは何をお手伝いすればよろしいのでしょうか?」
「それは着いてのお楽しみです」
ミーナはそう言って微笑むと、それ以上は口を開こうとしない。どうやら目的地に着くまで話すつもりはないらしい。リッカとエルナは顔を見合わせると、再び首を傾げるのだった。
ミーナは中央広場を抜けると、そのまま商店街の中を進んでいく。
「ミーナ様、何かお買い物でしょうか?」
エルナがそう尋ねると、ミーナは首を横に振る。
「いいえ、お買い物ではありませんよ」
そう言って少しの間歩き、やがて目的地に着いたのか足を止めた。そこは一軒の建物の前だった。若い女性の列ができている。ミーナはその横を素通りし、建物の脇にある勝手口のような扉の前に立つと、扉をノックする。すると中から返事が聞こえた。どうやら中に人がいるようだ。ミーナが扉を開けるとリッカとエルナに中へ入るよう促した。
リッカとエルナは促されるまま中に入る。するとそこには一人の男性が待っていた。その男性の顔に見覚えのあったリッカは思わず声を上げる。
「貴方は……!」
男性はリッカに気づくと、ニコリと微笑む。その笑みにはどこか余裕が感じられた。
「やあ! 君は開店記念のときのお嬢さん。そうか。じゃあ、君が僕の救世主なのかな」
「きゅ、救世主?」
リッカは男性の言葉に首を傾げる。男性はそんなリッカの様子に、ククッと笑った。戸惑うリッカを余所に男性は話を続ける。
「ああ、自己紹介がまだだったね。僕はこの店の店主で、名前はラウルだ。よろしく」
ラウルはそう言うと右手を差し出したが、その手はエルナによって制された。
「ラウルさんでしたね? お初にお目に掛かります。私はエルナと申します。リッカさんの義姉です」
エルナはラウルの目を真っ直ぐ見据えながら、そう名乗った。姉としてリッカの保護者として、どこの馬の骨とも分からないラウルを警戒しての行動だった。
「ああ、貴方がエルナさんですね。本日はよろしくお願いいたします」
ラウルはそんなエルナの態度に気を悪くすることなく、逆に微笑みながら挨拶を返す。
「時間もないことですし、中に入っていただいて早速本題に入りましょう」
ラウルに手招きされる形でリッカとエルナ、そしてミーナは店舗の中へと入る。店の中には甘い匂いが充満していた。リッカは美味しそうな匂いに鼻をヒクつかせる。