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新人魔女の店舗見学(4)

 ロレーヌは、没落した貴族の境遇などこれまで考えたことすらなかった。しかし、我が娘となったエルナの生い立ちを考えると、胸が締め付けられる。ロレーヌはエルナを抱きしめる腕に少し力を込めた。


「お義母様?」


 自分を見上げるエルナの瞳にロレーヌは小さく笑みを返す。そしてそのまま言葉を続けた。


「大丈夫です。あの方は厳しく指導されますが、決して貴女が出来ていないからではありません。焦る事はありませんよ」

「ですが……。リッカさんの方が……」


 エルナは小さく不安そうな声を上げる。ロレーヌはエルナの髪を優しく撫でると、諭す様に言葉を発した。


「リッカは以前に舞踏を習っているのです。貴女とはスタートラインが違います」

「それは……そうなのですが……」


 エルナは、自身が焦りで空回りしていると自覚していないようだった。ロレーヌは抱きしめていたエルナの体をそっと離すと、優しい微笑みを浮かべ、諭すように言葉をかける。


「貴女が今すべき事は、体をゆっくりと休める事だと(わたくし)はそう思いますよ。いくら練習時間を増やしても、間違った型を体が覚えてしまっては、元も子もありません。それに、足を痛めたらどうします? 今後の練習が満足に行えなくなり、それこそ遅れをとることになりますよ」


 エルナは何も言い返さない。ただ黙って母の話を聞いていた。


(わたくし)はまだ貴女のことをよく知りません。それでも、貴女が努力を惜しまない人だと言う事は、貴女を見ていれば分かります。それだからこそ今、無理をしそうになっていることも分かります。ですが、無理は貴女の為になりません。ですから、(わたくし)は貴女に舞踏の練習を禁じます」


 エルナは母の言葉にまだ不満そうな表情を見せていたが、それでも小さく頷いた。


「……承知しました。個人練習は致しません」


 エルナが渋々ではあるが了承の意を示したことを確認すると、ロレーヌはもう一度、娘の髪を優しく撫でた。リッカはそんな二人の様子を見ながら、エルナの不安が少しでも和らぐようにと願うのだった。


「お姉様、大丈夫ですか? お母様のおっしゃる通り無理をしてはいけませんよ?」


 リッカの言葉にエルナは小さく頷く。


「ええ、ご心配をおかけしました」


 エルナはそう言ってリッカに笑顔を向ける。しかしその笑顔の中にはまだ不安そうな色が見え隠れしていた。どうやら完全に納得がいったわけではない様だ。ロレーヌはそんな養女に小さくため息をつきつつ、自身の席へと戻るのだった。

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