新人魔女の店舗見学(3)
「ダメよ。ホールの使用は認めません」
「どうしてですか?」
エルナが不満そうな声を上げる。ロレーヌはそんなエルナに諭す様に話しかけた。
「貴女の気持ちは分かりますよ、エルナ。でも、無理をするのは良くありません」
「無理なんてしていませんわ」
珍しくエルナがムッとした表情で言い返す。ロレーヌは再びため息をつくと、静かに言葉を発した。
「エルナ、私は貴女の頑張りを認めているつもりです」
ロレーヌの言葉にエルナは口を噤んだ。しかし、まだ納得のいかない表情をしている。
「時間はありません。それは事実です。ですが、もう少し肩の力を抜きなさい」
ロレーヌはそう言うと優しい笑みを浮かべた。
「ですが……」
エルナは不満そうな表情のまま、小声で反論を試みる。しかし、その声は、ロレーヌの行動に遮られた。ロレーヌは席を立つとエルナが座る椅子の後ろへと回り込んだのだ。そしてそのまま、エルナを背後から抱きしめる。
「お義母様……?」
突然の事にエルナは目を丸くする。母の思わぬ行動にリッカも驚きを隠せなかった。ロレーヌはエルナを抱きしめたまま口を開く。
「貴女はよくやっています。貴女は聡明で所作がとても綺麗です。貴女の境遇ではきっと、十分な環境に身を置けなかった事でしょう。それにも関わらず、随分と努力をしたのでしょうね。私は正直貴女がここまで貴族令嬢として遜色なく振る舞えるとは思っていませんでしたよ。私が思っていたよりもずっと貴女は凄い娘です」
ロレーヌの言葉にエルナの瞳に涙が浮かぶ。
「ですから、もう少し力を抜きなさい」
エルナは小さく嗚咽を漏らすと、静かに涙をこぼし始めた。そんな義姉の様子を見てリッカも目頭が熱くなるのを感じる。
「お姉様はお義母様の自慢の娘ですね」
リッカがそう言うと、エルナは少し恥ずかしそうにしながら微笑む。そしてロレーヌも少し照れた様に笑った。
「そうね。エルナが我が家へ来てくれて良かったわ」
ロレーヌはそう言うとエルナの頭を優しく撫でる。義母の言葉に、エルナはさらに頬を紅く染めた。
「……これまで私が頼れたのは、私を厄介者と思う遠縁の者だけでした。もちろん、厄介者の私には貴族教育の講師などつけてもらえるはずもありません。座学や所作は一人でもなんとか学ぶことができました。でも舞踏は違うのです。舞踏は私一人では……。ですから、経験も知識もなく……」
ロレーヌは静かに耳を傾けた。エルナの心情を察すると、胸が詰まる。