新人魔女の店舗見学(1)
「では、本日はここまでと致しましょう」
貴族教育が始まって四日目。舞踏練習開始から二時間半が経過した頃、ようやく老女から終業の合図が出た。今日もまた随分と絞られた気がするとリッカは思う。
「これで本日の舞踏講義を終わります。明日は天曜日になりますので、私の講義はお休みです。どうぞゆっくりとお体をお休めくださいませ。それでは失礼致します」
老女はそう言うと、王宮に仕える講師らしく、丁寧に頭を下げてから部屋を出て行った。講師を見送るため母ロレーヌも後を追って部屋を出ていく。部屋に残されたリッカとエルナは大きなため息をついた。そして、互いに顔を見合わせると、どちらからともなく苦笑を浮かべる。
「今日も厳しかったですね」
「そうね……。それでも、ようやく舞踏の型を教えてくださいましたけれど……」
二人は揃ってため息をつく。
実はリッカは、舞踏について一通りの知識を持っていた。もちろんそれは、これまでの貴族教育で身につけたものだ。しかし知識があっても、これまでに舞踏を披露した経験はなく、頻繁に練習をしていたわけでもないため、体は思う様に動かなかった。エルナに至っては、初めての舞踏講義に緊張と不安があり、全くと言っていいほど踊れない。
「こんなこと言ってはダメなのでしょうけれど……私、舞踏は苦手かも知れません」
エルナは不安そうに呟く。リッカはそんなエルナを励ます様に声をかけた。
「大丈夫ですよ、お姉様! きっと上手くなりますから!」
そうは言ったものの、リッカ自身、言葉とは裏腹に胸中には大きな不安が渦巻いているのだった。
「そろそろお義母様も戻っていらっしゃるでしょうから、談話室へ戻ってお茶に致しましょうか」
力無い笑みと共にそう提案したエルナにリッカは頷くと、二人は揃ってホールを後にした。
リッカとエルナが談話室へと戻ると、既に母は二人を待っていた。ロレーヌは戻ってきた二人に声をかける。
「お疲れ様でした。二人とも席に着いてちょうだい」
リッカとエルナは母に言われるまま席につく。すぐにお茶が出された。リッカは出されたお茶に早速口をつける。緊張と厳しい練習とで喉が随分と乾いていた様だ。カップの中身を一気に飲み干す。いつもならばはしたないと母に咎められるだろうが、今日は何も言われなかった。
水分補給を終え一息つくと、今度はコクリと一口分を優雅に口に含む。普段はあまり口にしない茶葉の香りがふわりと鼻腔をくすぐった。