新人魔女と楽しい貴族教育(7)
リッカとエルナが邸に戻ると、母が待っていた。午後の舞踏練習が始まるまでの間、三人で昼食をとる。
「どうでしたか? ミーナ様の講義は」
母ロレーヌが食後のお茶を飲みながら、二人に尋ねた。リッカとエルナは顔を見合わせると、ニコリと笑って答える。
「とても勉強になりました!」
「ミーナ様のお話はどれも興味深くて、時間があっという間に過ぎてしまいました」
二人の返答にロレーヌは静かに頷いた。そしてお茶をひと口飲みながら更に尋ねる。
「どのような事をお教えいただいたのですか?」
その問いに二人はミーナの講義の内容を母に説明した。
「なるほど……。前任のあの方とは随分と違う講義の様ですけれど、貴女たちにはミーナ様の講義の方が有益な時間となったのですね」
母がそう言うと、リッカとエルナの二人は嬉しそうな笑顔を見せる。ロレーヌはそんな二人の反応を見て目を細めた。
「でも、国のあり方を変えるだなんて、そんなことは貴女がたがしなくてはいけないことなのかしら……。女性は家をしっかりと守ることを第一に考えるべきだと私は思うのだけれど……」
ロレーヌはそう言いながら、自身の娘二人を見る。その視線を受け、リッカとエルナは珍しく真剣な表情を浮かべる。そして互いに目配せをしあうと、母に向かって口を開いた。
「お義母様のお考えも分かります。しかし、私は皇太子となる方へ嫁ぐのです。世情も知らず、国の行く末も案じず、ただ安穏と暮らすだけで良いはずがありません。将来あの方のお役に立てません。出しゃばるつもりは毛頭ございませんが、それでもお飾りの妻ではいたくないのです。少しでも知識を得て、ネージュ様や国王陛下のお力になりたいのです。だから私はもっと広い世界を知るべきだと思っています」
エルナの言葉にリッカも続く。
「私もお姉様と同じです。お姉様のお役に立ちたいですし、自分自身も成長していきたいのです。それには民の暮らしを知ることが一番だと思います。民の暮らしを知れば、国の在り方や政治の在り方も自ずと見えてくると思うのです。この家を継ぐ者として、茶会の作法や貴族社会の仕組みをしっかりと理解する事は大切だと思います。ですが、スヴァルト家は王族へ嫁がれるお姉様の後ろ盾として、いつでもお役に立てる様、知識と力を蓄えておかなくてはなりません。お母様。その為にもミーナさんの講義はとても有意義なものでしたよ」
二人の言葉を聞いてロレーヌは軽く目を瞑る。