新人魔女と楽しい貴族教育(6)
リッカとミーナの慌てぶりにエルナがおかしそうにクスクスと笑う。
「では、その魔女様について何か分かりましたら、私にも教えてくださいね」
エルナの言葉にリッカは少しソワソワした様子で頷いた。
「もちろんです。すぐにお姉様にもお伝えしますね」
そんなリッカの様子を見て、ミーナはクスリと笑った。無理もない。これまで正体の分からなかった憧れの存在に一歩近づくきっかけを掴んだのだ。
リッカの胸の内を思いながら、ミーナはパンパンと手を打ち鳴らした。そして、少し茶目っ気のある笑みを見せる。
「さぁさぁ。話が少しそれてしまいましたね。リッカちゃんの魔女様については、また今度お話を聞くことにして、まずはお勉強を進めましょうか」
それから三人は店内にある商品を教材にして、産地や作り手、価格相場などについての勉強を再開した。そして、日が高く昇った頃、邸から迎えの馬車が来た。
「ミーナさん、お昼はどうされるのですか? ご一緒にいかがですか?」
リッカがそう尋ねると、ミーナは首を振った。
「ごめんなさいね。今日はお昼から商談のお客様が来ることになってるの。午後の舞踏練習は、王宮から舞踏講師の方がみえる様ですよ。どちらにしてもこの体では……」
ミーナはそう言って自身の腹を軽く撫でる。
「そうですか……残念ですが、仕方ありませんね」
リッカは残念そうにしながらも頷いた。エルナはその点についてはある程度予想していたのか、あまり残念そうな素振りは見せなかった。その代わり、ミーナを気遣う色を見せる。ミーナはそんな二人の様子をみて、ニコリと微笑むと言葉を続ける。
「きっと舞踏の練習でお疲れになってしまうでしょうから、今夜はゆっくりお休みくださいね。明日は、少し趣向を変えた講義を致しましょう」
ミーナの言葉にエルナとリッカは互いの顔を見合わせてから、不思議そうに頷いた。
二人はミーナに別れの挨拶をすると馬車に乗り込む。御者によって扉が閉められると、馬車はゆっくりと走り出した。ミーナは馬車が見えなくなるまで、その後ろ姿を見送る。その顔には満足そうな笑みが浮かんでいた。
正直なところ、店で貴族教育など出来るだろうかと不安だったのだが、二人の様子を見るに問題なさそうだ。教え子の二人には既に素養が備わっている。今更、型にハマった教育など全く必要がない。それよりも、彼女たちの好奇心の赴くままにより多くの知識を吸収させるべきだ。ミーナは一人そう考えた。