新人魔女と楽しい貴族教育(4)
そこまで言うとミーナは息を吐き、エルナに笑顔を向ける。
「少し話が大きくなりすぎましたね。何はともあれ、まずは立派なお貴族様を二人育てなくてはいけません」
ミーナはそう言ってクスクスと笑いながら、ティーカップに口を付けた。そんなミーナをじっと見つめるエルナの表情は真剣そのもので、目には強い意志が宿っている。そんなエルナの雰囲気を感じ取ったのか、ミーナはエルナに向けてニコリと微笑むと、お茶を勧める。エルナはひと口飲んでから口を開いた。
「ミーナ先生、お話が聞けて良かったです。私は私に出来る事をと考えていましたが、それだけではダメなのですね。周りの意識を変える。その方法も考えなくてはいけません」
エルナがそう言うと、ミーナは頷きで答える。
「そうですね。そうやって皆の意識が少しずつでも変われば、今よりずっと生きやすい社会になると思いますよ」
ミーナはそう言うと、二人に笑いかける。それから三人は、これからの国のあり方について話し合った。
「いきなり多くの人の意識を変えるのは難しいですよね。それこそ、国王陛下が今日から貴族は廃止する! とでも宣言しない限り」
リッカの言葉にミーナが頷く。
「ええ、それは現実的ではないかもしれないわね。でも、小さなコミュニティから少しずつ意識を変えていくことなら、私達にもできるんじゃないかしら」
「小さなコミュニティからですか?」
エルナが首を傾げた。
「ええ。例えばの話だけど、スヴァルト家の邸の中とか。スヴァルト家の領地とか。そういう小さなコミュニティから貴族と平民の垣根を少しずつなくしていければいいんじゃないかしら」
「でも、垣根を無くすって一体どうすれば……」
リッカは困った様子でエルナと顔を見合わせる。ミーナはそんな二人に笑顔を浮かべた。
「それは、これからゆっくり考えましょう。これからいろいろな事を見たり、聞いたりして、お二人らしい答えを見つければいいのですから」
「私達らしい答えですか?」
エルナの問いかけにミーナは頷いた。
「ええ。この問いに正解なんてありません。強いて言えば、より良い社会をと思って行動に移すことが一番の正解なんじゃないでしょうか」
ミーナはエルナに向かって笑顔を向ける。
「エルナ様のそのお心が既に正解なのだと私は思いますよ」
エルナはミーナの言葉に少し顔を赤くした。そして、コホンと咳払いをすると、エルナらしい凜とした佇まいで答える。
「ありがとう存じます」