新人魔女と新しい家庭教師(8)
「店番をしながら、貴女方の教師役もしろと貴方はそう言っているのですよ」
「あ……」
ロレーヌの言葉にリッカはハッとした表情を浮かべる。そして次の言葉が出てこないのか、俯いてしまった。そんなリッカを援護する声をあげたのはエルナだった。
「お義母様、私はリッカさんのご提案はとても良いと思いますわ」
エルナの援護にリッカの顔が少し明るくなる。そんなリッカの様子を気にすることなく、ロレーヌはエルナに返答した。
「エルナ、貴女までそんな……ミーナ様のご負担を考えなさい」
「それは分かっておりますが、それでも……」
エルナはそう言って、ミーナに視線を向ける。そして言葉を続けた。
「ミーナ先生、私達がお店へお伺いすることはご迷惑になりますか?」
エルナの言葉にリッカは期待を込めた目でミーナを見つめる。しかし、二人の期待を受けたミーナは困惑の表情で返事をした。
「いえ。お二人が店へ来るのは構わないのですけれど……ロレーヌ様が仰るように、店の営業をしながらお勉強をお教えすると言うのは……その、無理ではないのですよ。お恥ずかしい話ですが、元々それほど頻繁に来客があるわけでは有りませんから。時間はあります。ですが、あの……仕事の片手間にと言うのは……」
ミーナはそう言いながら、チラリとロレーヌの反応を伺う。ロレーヌはミーナの視線に頷きで返す。そして、エルナに視線を移して口を開いた。
「リッカはともかく、何故貴女までそのような事を言い出すのです、エルナ。ミーナ様には馬車を手配します。お店のことについては、休業保証として家庭教師のお手当を予定よりも多く出します。そうすれば、旦那様も代わりに店に出なくて良くなるでしょう?」
ロレーヌの言葉にエルナは首を横に振る。
「お義母様、違うのです。私は、これからの私達に必要な学びは何かと考えた上で、ミーナ先生のお店が勉強場所に相応しいと思ったのです」
エルナの言葉にロレーヌは少し眉根を寄せる。
「貴族らしさを身につけるためには、従来通りのお勉強がもちろん必要です。ですが、それだけでは足りないのではないでしょうか。私もリッカさんもこれからの貴族社会を、ひいては国全体を牽引していく立場にあるのです。その私達が、国の土台である平民の方々の暮らしや生活、そして国の根幹である経済について学んでおくことは、きっと必要な事なのではないかと思うのです」
エルナは至極真面目な顔でロレーヌにそう訴えかけた。