新人魔女と新しい家庭教師(5)
ミーナは、そう言ってリッカにウインクをして見せた。
イシュミール夫人から話を聞いた時、ミーナは気が重くなった。既に平民となった自分が貴族の家庭教師をするなど、何か面倒ごとが起こらないだろうかと心配になった。しかし、教え子になる令嬢の名前を聞いてもしやと思った。ジャックスを通じてリゼに連絡を入れ事情を聞いたミーナは、リゼからの頼みもあってリッカ達の家庭教師を引き受けることに決めたのだった。
「でも、本当に良いのですか? ミーナさんにはお店がありますし、それにお腹には……」
リッカがそう言って心配そうな顔をミーナに向ける。しかし、ミーナはそんなリッカに対してにっこりと微笑むと、お腹に手を当てゆっくりとさすった。その様子から状況を察したロレーヌが驚愕の表情を浮かべ声を上げる。
「まぁ、ミーナ様。お腹にお子様がいらっしゃるの!? そんな大変な時期にわざわざ来ていただいて……」
ロレーヌが驚くのも無理はない。ロレーヌはイシュミール夫人からミーナのお腹に子供がいるという事実を知らされていなかったのだ。驚いた声を上げるロレーヌにミーナは慌てることもなく落ち着いた様子で口を開いた。
「いえ、お気になさらないで下さい。私が来たくて来たのですから。それに医者からも特に問題はないと言われています」
そう言ってお腹をさするミーナにロレーヌは神妙な面持ちで頭を下げる。エルナも母となるミーナが大変な時期に家庭教師を引き受けてくれたことに驚きを隠せない様子だった。
エルナはおずおずとミーナに声をかける。
「ミーナ先生……。私の、私たちの家庭教師を引き受けて下さってありがとうございます」
エルナの感謝の言葉に、ミーナは笑顔で言葉を返す。
「いえ、私の方こそ、貴族教育の教師なんて経験がないもので。エルナ様、リッカ様にとって良い家庭教師になれるか分かりませんが、どうぞ宜しくお願い致します」
ミーナはそう言ってエルナに頭を下げた。顔を上げたミーナにエルナは遠慮がちな様子で声をかける。
「あ、あの……。先ほどのリッカさんとのお話の中でお店があると仰っていましたが、その……大丈夫ですか? ミーナ先生には他にもお仕事がお有りということでしょう? 突然こちらのお願いをしてしまったので、お仕事に支障が出るのではありませんか?」
エルナの言葉にミーナは笑顔のまま答えた。
「お気遣いありがとうございます、エルナ様。ですが、どうぞお気になさらないで下さい」