新人魔女と新しい家庭教師(4)
ロレーヌとエルナは一度顔を見合わせる。そしてロレーヌが了承の頷きを返した。ミーナはそんな二人の反応に頭を下げた。そして、一呼吸置くと口を開く。
「リッカちゃん。驚かせてしまってごめんなさいね。私の実家はイシュミール家。知ってるかな?」
その言葉にリッカは目を見開く。イシュミールは、王国軍の最高司令官、元帥の位を代々世襲している大貴族である。
リッカは言葉も出せずに、ただただ驚いた表情でミーナを見つめていた。
「ふふふ、驚くわよね。ごめんね。前もって伝えていなくて。ジャックスと結婚したときにイシュミール家から籍を抜いたから、私は歴とした平民」
「そ……そうだったのですか」
リッカは驚きを隠せない。イシュミール家といえば、王国内において、現在の宰相であるスヴァルト家に並ぶと言っても過言ではないくらいの大貴族だ。そんな大貴族のご令嬢が平民に降格することなど、リッカはこれまでに聞いたことがなかった。
リッカは頭の中を整理する為に深呼吸をした。そして再び質問を投げかける。
「だとしたら、どうして平民であるミーナさんがわたしたちの家庭教師に?」
リッカの疑問は当然である。平民が貴族の家庭教師になるなどということは普通ありえない。
「前任の先生が突然辞めてしまってお困りになったロレーヌ様が、以前から親しくさせて頂いていた私の母へご連絡をくださったの」
そこでロレーヌが話を引き継ぐ。
「元々はミーナ様のお母様に家庭教師を引き受けて貰えないかしらと思っていたのよ。ただ残念ながら、お孫さんのお相手で忙しいと断られてしまって、仕方なくあの方に」
急遽決まった貴族教育。教師を務めてくれる貴族女性を見つけるのは簡単ではなかった。ロレーヌは断られるのを覚悟で方々へお願いの連絡をした。そして唯一教師役を引き受けてくれたのが、サラ・ボニーだったのだ。
しかし、あの様な物別れに終わってしまった。ロレーヌは頭を抱え、ミーナの母であるイシュミール夫人に教師を引き受けてくれそうな人に心当たりはないかと、再びお願いの連絡をしたのだった。
そこで白羽の矢が立ったのが、イシュミール家の令嬢だったミーナである。ロレーヌはミーナが平民へ下った事を知っていたが、それでも良いのでなんとか家庭教師を引き受けてくれないかと頼み、そして今に至るのである。
「私も、家庭教師をする相手を知って驚いたのよ。まさか、リッカちゃんがスヴァルト家のお嬢様だったなんて」