新人魔女と新しい家庭教師(3)
リッカ、エルナ、ロレーヌの三人の向かいに、ミーナが腰を下ろした。リッカはどこか落ち着かない様子でそわそわとしていた。そんな彼女の様子にミーナは再びクスッと笑う。そして口を開いた。
「改めまして、皆様。ミーナ・ランバートと申します。本日より、エルナ様、リッカ様の家庭教師を務めさせて頂くこととなりました。どうぞよろしくお願い致します」
そう言うとミーナは頭を下げる。慌ててリッカも頭を下げた。
「母からお話を聞いた時にはとても驚きました。なんでも家庭教師をされていた方が急に辞められてしまったとか。私にその方の代わりが務まるかどうかと少々不安ではございますが、リッカ様とは個人的に親しくさせて頂いておりますし、リッカ様の師の大賢者様からもお力になって欲しいと言われましたので、微力ながら精一杯努めさせて頂きます」
「まぁまぁ大賢者様からもお口添えいただいたのですね。お恥ずかしいことですが、そうなのです。前任の方と少々行き違いがございましてね」
ロレーヌは頬に手を当てて赤面した。ミーナはサラの件を知っているようで、苦笑いを浮かべ、そんなロレーヌに同情するような言葉をかける。
「なかなか難しいこともございますからね……」
二人が何やら理解し合っている様子を、リッカは不思議そうに見る。
「あ、あの。少しいいですか?」
リッカはおずおずと二人の会話に割り込んだ。
「ミーナさんは、その……、貴族なのですか? お店を営まれているし、わたし、てっきり……」
リッカの言葉にミーナは柔らかい笑顔を浮かべる。ミーナは正確には貴族ではない。元貴族である。元々平民の身分であったジャックスと結婚をしたことで、ミーナ自身の身分も平民となったのだ。
ミーナは微笑みながら、少し茶化すような言い方でリッカの疑問に答える。
「私はリッカ様がご存知の通り、街の雑貨屋店主、ただの平民ですよ」
「で、ですが……」
「あら、リッカ様は平民から教えを請うのは、やはりお嫌ですか?」
ミーナにそう問われ、リッカは慌てて首を振った。平民から教わるということが嫌だと感じているわけではない。知人であるミーナが家庭教師としてやってきたことに、まさかと戸惑っているだけである。
「そういうわけではなくて……ちょっとびっくりしてしまって」
しどろもどろになって答えるリッカに、ミーナは可笑しそうに笑う。
「ロレーヌ様、エルナ様。しばしの間、砕けた話し方をする事をお許しくださいませ」