新人魔女と新しい家庭教師(2)
リッカが聞いていようがいまいが、お構いなし。自分が正しいと信じて疑わず、毎度高説を垂れる。そして毎回小さな虚栄心をチラつかせるサラに対して、リッカが嫌悪感を募らせていくのにそう時間はかからなかった。
そしてついにお茶会でそれが限界に達してしまったというわけだ。
(あれで淑女だなんて、冗談だよね? またあんな人が来たらどうしよう……)
リッカは心の中でそんな事を思う。サラに淑女なんて言葉は似合わなかった。リッカは、隣に立つエルナへ視線を向ける。淑女とはエルナのような人のことを言うのだと、リッカは思った。
サラもエルナのことは事あるごとに褒めていた。その点だけは、サラの「淑女論」にリッカも同意を示す。貴族教育前にリゼが言っていたことにも頷ける。エルナは、既に貴族教育を受けているかのように完璧な立ち振る舞いをしていた。
今も、エルナはピンと背筋を伸ばして立っている。その姿は美しいという言葉以上に、気高く尊いものに見える。リッカは改めてエルナを尊敬の眼差しで見つめた。
おっとりとしていて、いつもふわりとした笑顔を絶やさず、それでいて常に冷静で、周囲への気配りもできる。エルナの周りでは皆が自然と笑顔になる。そしてエルナは、誰に対しても物腰が柔らかく、丁寧に接する。その姿はまさに淑女の見本と言えるだろう。
リッカがそんなことを考えていると、ロレーヌから声がかかる。
「さぁ、新しい先生がお見えですよ。二人とも、恥ずかしくないようになさいね」
その声に反応して玄関扉へ目を向ける。スヴァルト邸へ入ってきたその人を見て、リッカは驚きに目を見開いた。
「ミーナさん! どうされたのですか!?」
思わず大きな声が出る。玄関口に立っていたのは、プレースメント・センターの所長、ジャックス・ランバートの妻ミーナだった。
ミーナは驚いた顔のリッカに微笑むと、貴族令嬢らしいお辞儀をして見せた。
「ロレーヌ様、お久しぶりにございます。この度は、私のような若輩者にお声がけくださり、ありがとうございます。本日より、よろしくお願い致します」
ロレーヌも美しいお辞儀を返す。エルナもリッカの隣で、頭を深く下げていた。そんな二人とは違い、リッカだけは状況が分からずポカンとした顔をしている。その様子に、ミーナはクスッと笑う。そしてリッカと視線を合わせる。その目は、イタズラっぽく笑っていた。
リッカが状況を理解できないまま、一行は応接室へと場所を移す。