新人魔女と精霊のペンダント(5)
次の瞬間、羊皮紙は小さな光る鳥へと姿を変えると、そのまま羽ばたいて屋根に吸い込まれるようにして消えていった。おそらく、魔法を使って遠くに飛ばしたのだろう。リゼはリッカの知らない魔法を当たり前のように使う。
「これで大丈夫だ。請求しておいたので、そのうちに支払われるだろう」
その言葉を聞いたリッカは、ホッとしたように息を吐いた。これで本当に依頼完了だ。
「ネージュ様、ありがとうございました。私がしっかりとマリアンヌ様に伺ってきていれば、あなた様のお手を煩わせる事もなかったでしょうに……」
申し訳なさそうに頭を下げるエルナを見て、リゼは小さく首を横に振った。それから困り顔で微笑む。
「いえ、気にしないでください。それにしても……まさかエルナさんがこんなところまで来るなんて思ってもいませんでしたよ。せっかくですから、これからお茶でもいかがですか?」
リゼからの突然の提案に、エルナは目を丸くした。しかし、すぐにやんわりと断る。
「いえ……お茶は先ほどリッカ様に頂きましたので……。それに、ネージュ様は大変お疲れと伺っております。……どうかゆっくり休まれてください」
「えっ!? あぁ、まぁ確かにちょっと疲れていますけど、大丈夫ですよ」
「そうはいきません! お身体を壊したらどうなさるんですか!」
エルナが強い口調で言い放つ。それを見たリゼは、驚いたように目をパチクリさせた。そして、寂しげに肩を落とした。
「わかりました。では、お言葉に甘えて休むことにします」
リゼは素直に従うようだ。彼は肩をすくめながら、「エルナさんには敵わないな……」と呟いていた。それから、リゼはリッカの方へ向き直る。
「君の今日の予定は?」
急に話を振られたリッカは、ビクッと身を震わせた。
「えっと、特には……先日作ったヒヤシンの丸薬の乾燥状態を確認したら、山へ散策に行くつもりでした。天気も良いみたいだし……」
リッカが答えると、リゼは「なるほど」と言って、ニッコリと笑みを浮かべた。
「それなら、彼女を送って差し上げろ」
「はい?」
思わず聞き返す。リッカが困惑していると、隣にいたエルナが慌てた様子で口を開いた。
「そんな、リッカ様にもお仕事がありますでしょ! 私は一人でも大丈夫ですから」
エルナは必死で断るが、リゼはそれを遮るように人差し指を立てた。
「いいや、ダメです。あなたのような美しい女性が一人歩きなど、危険すぎます。もしあなたに何かあったら……」