新人魔女と新しい家庭教師(1)
「良いですか、リッカ。昨日のような事は今後一切しないように、肝に命じておきなさい」
母ロレーヌは、怒りを隠そうともせずにリッカにそう言いつけた。
昨日のお茶会の後、サラ・ボニーはロレーヌにリッカの振る舞いについて激しく抗議した。怒りを隠そうともせず早口で捲し立てるサラをロレーヌは何とか宥め、どうにか事を収めようと試みた。
しかしサラの怒りは相当なもので、今後の講義はしないと言い出す始末。それには流石に承服しかねたロレーヌがそれをやんわりと拒絶すると、サラはさらに声を荒らげ、ついにはロレーヌまでも罵倒し始めた。
初めのうちは黙って聞いていたロレーヌだったが、あまりに酷い物言いにさすがに怒り心頭し、いつの間にかサラと言い合いになっていた。
最終的には、「もう来ない」「もう来るな」と和解をみない意見の一致の末、サラは午後の講義をすることなくスヴァルト邸を飛び出していった。おかげで昨日の午後の講義は中止になった。
しかしその代わりに、父が帰ってくるまでリッカはお説教の刑に処されることとなったのだ。そして、朝になっても母の機嫌は直らなかった。
「貴女の振る舞いで、家名に傷が付くことも考えなさい!」
ロレーヌは、リッカにそう厳しく諭した。
「はい……」
リッカもそこは流石に反省していた。自分はあまりに未熟すぎたと思っている。しかしだからと言って、サラにあの様な形で反発したことについては、謝罪をするつもりはない。どう考えても見栄を張ろうと嘘をついたサラが悪いと、リッカはそう思っている。
そもそもリッカはサラのことがあまり好きではなかった。強めの香水も、キンキンとした甲高い声も、ヒステリックなところも。正直好きになれる所がなかった。
それでも母の知り合いで、家庭教師という立場の人だ。だからリッカも初めのうちはお嬢様然と接していた。
義姉のエルナと並んでサラを出迎え、貴族らしく長ったらしい挨拶と笑顔を貼り付けて相手をした。エルナと共にニコニコと愛想笑いを浮かべて、相槌を打っていたのだが、我慢の限界はいずれ来るものだ。
一瞬だけ気を抜いたリッカを、サラは見逃さなかった。
「あら? リッカ様には私の話など退屈だったかしら。今どきの子は、年長者とあまり関わりたがらないと聞きますものね。しかし、それではいけませんよ。淑女たるもの、年長者を敬い……」
サラは、スヴァルト邸へやってきてすぐにリッカに持論の「淑女論」を説いてきた。