新人魔女の貴族教育(8)
「あまりにも味が似ているので、わたし、驚いてしまいました。まさか先生……」
リッカの言葉に、サラは苛立たしげに言葉を遮る。
「何を仰りたいのか存じませんけれど、もうそろそろお茶会はお開きにいたしましょう。皆様ちょうど食べ終えたようですし」
サラはそう言うと、手をパンパンと打ち鳴らす。その音といったら、力任せに叩いたのではないかと思うほどに大きな音だった。スヴァルト家の使用人たちが慌てて部屋に入ってくると、サラは「さっさと片付けてちょうだい」とヒステリックに使用人たちへ命を下す。
その反応に、リッカは笑い出しそうになるのを必死で耐えながら、サラに声をかけた。
「先生、待ってください。まだ、お店へ行くお約束が出来ていないではありませんか?」
リッカののんびりとした声に、サラはイライラとした表情を隠そうともせずに振り返る。そして、憎々しげにリッカを睨んだ。事の成り行きを黙って見ていたエルナは何かを察して目を伏せた。
サラは声を張り上げる。
「貴女とは、参りません!」
怒りに肩をプルプルと振るわせるサラに、リッカは芝居がかった態度でため息をつく。
「そんな……わたしはあのお店のアップルパイを初めて食べたときから、気に入っているのです。先生が店主とお友達でしたら、是非ご紹介頂きたかったのに……」
「はぁ? なぜ私とスイーツ店の店主が友達だと?」
サラは理解に苦しむと言った表情を浮かべる。しかしリッカは大真面目な顔で言葉を続けた。
「だって、アップルパイの味があまりにも一緒なので、作り方を教えてもらったと思ったのです。店主が他人にレシピを簡単に教える訳ないですよね……。つまり、店主と先生はレシピを教えても良いくらい、とっても仲が良いということです。ぜひ、ご紹介して頂きたかったのですが……」
リッカの言葉にサラはポカンと口を開けたかと思うと、突然笑い出す。そして一頻り笑ったところでピタリと笑うのをやめて顔を上げた。
「失礼。そう。私はあの店の店主とは旧知の間柄ですわ。ですが、だからと言って、おいそれと貴女をご紹介なんて致しませんわ」
「あら、それはどうしてですか?」
リッカは可愛らしく小首を傾げる。そしてサラの目をジッと見つめた。その視線に気圧されてサラは怯む。しかし、自らを奮い立たせ、リッカを睨み返した。
「当然ではありませんか。ご紹介をするのは信頼関係があってこそです。私と貴女の間には、そんな物ございませんもの」