新人魔女の貴族教育(7)
そうか、とリッカは心の中で呟く。何も店へ買いに行かなくてもいいのだ。あのスイーツ店の店主を屋敷に呼んで、アップルパイを焼かせれば、店で出している物と同じ物が手に入るではないか。
リッカはそこまで推測すると、話の流れを作るべく口を開く。
「我が家でも、時折店の料理長をお招きして、お料理を頂くことがあります。ですが、わたしは可能な限りそのお店へ足を運びたいと思っています」
「まぁ、なぜですの?」
サラは一体何の話がしたいのだと言わんばかりに不思議そうに首を傾げる。
「だって、お食事とはお料理を食べて同席している方とおしゃべりをするだけではないと思うのです。そのお店の装飾や音楽、そういった雰囲気とでも言うのでしょうか。その店ごとの特色を楽しむのも、また食事の一部だと思いませんか?」
「まぁ、確かにそうかもしれませんわね……」
リッカの言葉にサラは同意を示す。それから少し意地悪そうな表情を浮かべた。
「そこまで仰ると言うことは、リッカ様にも贔屓のお店がございますの? もしや、そのお店に私をご招待頂けるのかしら?」
サラが茶化すように言うと、リッカはニコリと微笑み返す。
「ええ、是非ご招待したいと思っています」
リッカの答えにサラはキョトンとする。まさかこのような展開になるとは思っていなかったのだろう。
「まあ、本当ですの? それは楽しみですわ。リッカ様の贔屓のお店は、一体どちらなのかしら?」
サラの問いに、リッカは満面の笑みを浮かべて答える。
「贔屓にしていると言うか、まだ出来たばかりの新しいお店なので、これから贔屓にしようと思っているお店なのですけれど、街の中央広場近くにある『スイート・ミッション』というお店です。店主からは開店したばかりだとお聞きしたのですが、先生はご存知ですか?」
リッカの言葉を聞いたサラの頬が、ピクリと引き攣る。
「『スイート・ミッション』……ですか……」
サラの反応を見たリッカは、確信を得る。だが、リッカは何も気が付かないかのように言葉を続けた。
「少し前に、そのお店のアップルパイを頂いたのですが、先生のアップルパイと味がとても似ていて……」
リッカはそう言うと、皿に残っていた最後の一口分をパクりと食べる。サラは何か言いたそうに口を開きかけた。しかし、すぐに思い直したのかキュッと口を噤む。そして、リッカをキッと睨みつける。サラの視線を真っ直ぐに受け止めて、リッカはお茶をコクリと一口飲んだ。