新人魔女の貴族教育(5)
「もう良いですわ。でもリッカ様、誤解を招くような感想は慎んでくださいませ」
「はい、心得ております。今後は気をつけます」
サラはリッカの回答に満足したのか、ニコリと微笑む。
「そうですわね。今後は気をつけてくださいませ」
リッカはサラの言葉に頷くと、再びアップルパイを口へと運ぶ。美味しい。やっぱり美味しい。これが街のスイーツ店『スイート・ミッション』のアップルパイではないことがリッカには信じられなかった。リッカはサラには悪いと思いつつも、これはきっとあの店の物だろうという確信を持ってアップルパイを味わっていた。
そんなリッカをよそに、サラはお茶会講義を再開させていた。
「お茶会では、いろいろなお話を皆さんとさせていただくのも目的の一つです。お話の中から有益な情報を探り当てること、相手に自身の情報を伝えることが大切なのですよ。たとえば……」
サラはそこで言葉を切ると、エルナを見る。
「エルナ様。こちらのお茶はとても香り高くて美味しいですわね。これはどちらの茶葉をご使用になられたのかしら?」
エルナは、突然のサラの質問に戸惑いながらも、きちんと答える。
「は、はい。こちらは王宮御用達の茶葉でして、実は、当家の領地にて栽培した物なのです」
「まぁ、そうだったのですね。確かに、宰相様の領地で生産している茶葉は質の良いものを作られていらっしゃると聞き及んでおります。本当にこのお茶もとても素晴らしいですわ」
サラはそう言うとお茶を啜る。
「お褒め頂きありがとう存じます。もし宜しければ、茶葉を幾つかお贈りさせて頂きますよ。我が家の領地で栽培している物は、どれもとても高品質なので、きっとお気に召して頂けると思います」
「まあ! それはありがとうございます。エルナ様のご厚意に甘えさせて頂きますわね」
エルナの答えに、サラは満足げに頷くとパチパチと拍手を送った。
「エルナ様。素晴らしいお答えでしたわ」
「そ、そうでしょうか?」
エルナは照れくさそうに頬を緩ませる。サラはエルナに向かって大きく頷くと、リッカへ目を向けた。
「では、お次はリッカ様」
「わ、わたしですか!?」
突然話を振られたリッカは驚いて、食べようとしていたアップルパイを皿の上に落としてしまった。サラはそんなリッカにあからさまに顔を顰める。
「まぁ、なんてお行儀の悪いことでしょう。そんなことでは淑女失格ですわよ!」
サラにそう叱責され、リッカは思わず自席で身を固くした。