新人魔女の貴族教育(4)
リッカとエルナはサラに促されアップルパイを一口食べる。エルナは笑顔で美味しいと感想を述べるが、リッカはあれっと小首を傾げた。試しにもう一口食べてみる。口の中に旨味が広がる。美味しい。しかし、リッカはまたも小首を傾げた。
そんなリッカを不審に思ったのか、サラが声をかける。
「あら、リッカ様のお口には合いませんでしたか? 少しシナモンが強すぎたかしら」
リッカは、慌てて首を振る。
「いえ、とても美味しいです。……でも……」
リッカの答えを聞いて、サラの顔が見る見るうちに険しくなる。
「お茶会では、勧められたお茶とお菓子を口にしたら感想を述べるものですよ。もし、お口に合わなかったとしても、美味しくないなどと言ってはなりませんし、お顔に出してもいけませんわ」
サラの言う通り、例え美味しくてもまずくても、勧められた側は笑顔で感想を口にしなければならない。それが社交のマナーだ。お茶会が好きではないリッカとて、それくらいのマナーは知っている。
リッカは笑みを作り直すと、サラに謝罪した。
「申し訳ありません。ちょっと考え事をしてしまって……。本当にとても美味しいです。実は、知っているお店の味に似ていたので驚いてしまって……」
リッカの言い訳に、サラは眉をピクリと震わせた。
「し、知っているお店……ですか?」
「ええ。まだ開店したばかりの店で、一度しか口にした事がないのですが、あまりにも美味しかったので、とてもよく覚えているのです」
リッカの答えを聞いた途端、サラは怒り心頭とばかりに声を荒げる。
「な、何ですか? 貴女は私が買ってきたアップルパイをお出ししているとでも仰りたいの!!」
サラの剣幕にリッカは慌てて訂正をする。
「あ、いえ……。そういうわけでは……」
「それでは一体どう言うことですの!?」
サラはリッカに詰め寄る。エルナが慌てて割って入った。
「先生。落ち着いてくださいませ。リッカさんはきっと、お店を出せるほどに美味しいと言いたいのですわ。だってほら、こんなにも美味しいのですもの」
ゆったりと微笑みながらアップルパイを口にするエルナの言葉に、サラはハッとした表情を浮かべ、恥ずかしそうに頬を染めた。
「そ……それは大変失礼いたしましたわ。私、つい取り乱してしまいまして」
「……いえ、わたしもおかしな言い方をしてしまい申し訳ありません」
リッカは慌てて謝罪の言葉と共に頭を下げる。それに併せるように、エルナも丁寧に頭を下げた。