新人魔女の貴族教育(2)
エルナの堂々とした立ち振る舞いに、サラは目を見開いた。まさかエルナがそれほど真面目に講義を聞いており、さらには王宮の内情まで把握しているとは思わなかったのだろう。一瞬、呆けた表情を見せたものの、すぐに我に返ると、愛想笑いを浮かべた。
「そ、そうですわね。それは、良いお考えですわ。それに何より、ご自身の意見をはっきりと言えることがとても素晴らしいですわね」
サラのその言葉は、エルナの意見に同意したというより、この場をやり過ごすための返事のように聞こえた。
貴族には自分本位な者が多い。自分の意に沿わなければ、人の意見を頭ごなしに否定するか、論点をずらした意見を口にする。或いは傲慢にも話題自体を無視する場合もある。リッカがサラの態度を訝しく思っていると、案の定、サラは話題を転換してきた。
「そ、それではそろそろお茶の時間にいたしましょうか。本日のお茶菓子は、私がお二人のために作ったアップルパイですのよ」
サラはそう言って、そそくさと部屋を出ていく。途端にリッカはテーブルに突っ伏して大きなため息をついた。
「リッカさん、お疲れのようですね。昨夜は夜更かしでも?」
「ええ。例の魔力充填をいくつか。でも、それは大したことありません。それよりもあの先生です。退屈で、眠くて眠くて……。あと、とても香水の匂いがキツイです。どうしてお母様は、あんな方に教師をお願いしたのかしら……」
リッカはそう言うと、テーブルに突っ伏したまま顔をグリグリと動かす。エルナはその可愛らしい仕草に思わず笑いを零す。
「お義母様のことですから、きっと何かお考えがあるのでしょう。私も、退屈には感じますが、しっかりと学びましょう」
エルナがそう言うと、リッカは突っ伏していた顔をガバッと起こす。エルナはこれほどにつまらない講義であっても、真摯に向き合おうとしている。その姿勢はリッカにとって尊敬に値するものだった。
「エルナお姉様は、本当に素晴らしい方ですね。リゼさんが好きになるのも分かる気がします」
リッカがそう言うと、エルナは照れくさそうに微笑んだ。
しばらくすると、サラがお茶の用意をした使用人を引き連れて戻って来た。これからはティータイムとなる。と言っても、休憩時間ではない。お茶の時間という名の講義が始まるのだ。もちろんサラも同席するので、昨日のように楽しいティータイムにならないことだけは確かである。リッカは、再び大きなため息をついた。