新人魔女の貴族教育(1)
「はい。それでは本日もチャッチャとお勉強を始めましょうね」
スヴァルト家にやって来た家庭教師サラ・ボニーの甲高い声が部屋中に響き渡る。今日も今日とて、座学が始まった。しかし、その内容は本日も退屈極まりなかった。
リッカは大きなあくびを噛み殺しながら教科書に目を落とす。その様子を見たサラが早速激昂する。
「リッカ様。いけませんよ。淑女たるもの、あくびなど……」
リッカは慌てて姿勢を正すものの、やる気など微塵も湧いてこなかった。
本日最初の講義は、貴族の頂点である王室について。王侯貴族の歴史から始まり、政治、経済、外交に至るまで、およそ王族がかかわる全ての事柄について、サラはペラペラと説明していく。確かに、貴族の成り立ちから知ることは重要だろう。しかし、すでに知っていることがほとんどだ。しかも内容が浅い。これでは何時間聞いても頭に残らないだろう。
リッカは再度漏れ出そうになった大きなあくびを噛み殺し、隣の席へ目をやる。隣には、真剣なまなざしでサラの説明に聞き入るエルナの姿があった。まさか、これほどつまらない講義に、エルナが集中しているとは思わなかった。リッカは真面目で勉強熱心な姉の姿に感心する。
リッカは講義に全く身が入らぬまま、再びぼんやりと教科書を目で追い始める。退屈なのは否めない。こんなことを学ぶより、魔法の実習をした方が遥かに将来の役に立つのに。
リッカがそんなことを考えていると、サラが質問を投げてきた。
「それでは、リッカ様。ご意見をどうぞ」
サラはそう言うと、ニコリと微笑む。
「……えっと……?」
突然質問されたリッカは、言葉に詰まった。講義が始まって以来、リッカはただぼんやりと聞くだけで、全くと言っていいほどサラの話を聞いていなかった。なので何を聞かれているのかすらわからない。
口籠るリッカに、サラは侮蔑の目を向ける。そしてやれやれと肩をすくめると、優しい口調でエルナに意見を求めた。
「では、エルナ様は何かご意見がございますか?」
エルナは背筋をピンと伸ばし、ハキハキとした口調で意見を述べ始める。
「先日知ったのですが、王宮内では、お一人だけで担われているお仕事があるのだそうです。いかに、その方が優秀であったとしても、お一人で出来ることには限りがあります。ですから、より多くの方にご協力をお願いするべきかと存じます。雇用促進の検討をすること。ひいてはそれが国の経済的発展に繋がると存じます」