新人魔女とお姉様(7)
エルナはリッカの言葉に小首を傾げる。
「……今回のお話がこんなに急なことになってしまったのは、……その……わたしがリゼさんの計画通りにしなかったからなのです……」
「まぁ……そうだったのですか?」
エルナは驚いてリッカを見る。リッカは気まずそうに頷いた。エルナは、そんなリッカの様子に表情を和らげると、リッカの手をそっと取り、優しい口調で語りかける。
「私に謝ることなどありません。スヴァルト家の養女となり、ネージュ様に嫁ぐことは既に内々で決まっていたことではありませんか」
エルナはリッカを安心させるように、握る手に少し力を入れた。しかし、リッカはエルナの言葉にますます恐縮し、肩を縮める。
「ですが、リゼさんから聞いたのです。計画通りにしていたら、マリアンヌ様の戴冠式までに貴族教育を終わらせろなどとは言われなかったのだと。本来なら、エルナさ……お姉様はもっとゆっくりご結婚の準備が出来たのです。それなのに……大変なことになってしまって、ごめんなさい」
リッカはそう言うと俯いて、エルナの手をギュッと握る。そんなリッカの様子にエルナは一度義妹の手を離すと、両手でその手を包み直す。リッカが顔を上げると、そこには慈愛に満ちた義姉の顔があった。
「大変なのは、リッカさんも同じではありませんか。私と一緒に貴族教育を受けて下さるのでしょう? 私、一人では挫けてしまうかもしれませんけれど、リッカさんが一緒なら心強いわ」
エルナの言葉に、今度はリッカが微笑む番だった。二人の姉妹はお互いの手をしっかりと握り合う。二人はしばらくの間見つめ合うと、どちらからともなくクスクスと笑い出した。穏やかな時間が流れる部屋に二人の笑い声が響き渡る。
ひとしきり笑った後、エルナは表情を改めてリッカに尋ねる。
「リッカさんは、貴族教育を受けている間、工房のお仕事はどうされるのですか?」
「当面の間はお休みです。リゼさんもそうしろと……」
リッカがそう言うと、エルナが頬に手を当てて思案顔になる。
「それは残念ですわね。リッカさんはいつも楽しそうにお仕事されていましたのに……」
リッカは、エルナの意外な言葉にニヤリと笑みを浮かべる。
「工房へ行けないのは残念ですけど、家にいても、お仕事は出来るのですよ。お姉様!」
そう言って少し胸を張るリッカに、エルナは首を傾げた。リッカはエルナに部屋で待つように伝えると、昨日リゼから渡された仕事を取りに自室へ戻る。