新人魔女とお姉様(5)
挨拶をされたリッカは驚いて固まるが、慌てて同じように挨拶を返す。
「こちらこそよろしくお願いします。エルナさん」
二人が挨拶を交わし合い、微笑み合っていると再びロレーヌの声が響いた。
「全くダメよ。貴女たち」
ロレーヌの言葉に二人は動きを止めてそちらに視線を向ける。ロレーヌは優しげな笑みを浮かべているが、目は笑っていなかった。リッカは背筋に冷たいものが流れるのを感じ、ゴクリと生唾を飲み込む。隣ではエルナも顔を青ざめさせていた。二人の様子にロレーヌの笑みがますます深くなる。
「な、何がダメなのですか? お母様」
リッカは動揺で声を上擦らせながらロレーヌに尋ねた。リッカとエルナは、どんなダメ出しが返ってくるのか身構える。そんな二人の様子を楽しげに眺めていたロレーヌが口を開いた。
「リッカ、エルナはあなたよりも年長者。姉になるのですよ。それをなんですか。『エルナさん』などと。もっと親しみを込めて、お姉様と呼ぶべきでしょう?」
ロレーヌの言葉にリッカは、すぐに反応できず目を白黒させた。エルナも呆気に取られたように呆然としていた。
「そ、それは……確かにそうですね」
しばらくしてリッカが母に同意の意を示すと、ロレーヌは満足そうに頷いた。そして今度はエルナに向かって言葉をかける。
「あなたもですよ。エルナ。貴族にとって相手に対する敬意を示すことは重要です。仲を深めるために親しみを持って接することも大切です。ですが、年長者としての敬意を示すことを忘れてはいけません。リッカは貴女の妹となったのですよ」
ロレーヌの言葉にエルナは驚きつつも、すぐに頷く。そして姿勢を正すと真っ直ぐにリッカを見つめた。
「これからよろしくお願いしますね? リッカ……さん」
エルナはそう言って照れ笑いを浮かべた。突然、姉らしく振る舞えと言われても、やはりすぐに出来るものではない。エルナの言葉には照れやぎこちなさが見て取れた。
「はい……お姉様……」
リッカも、なんだかこそばゆい気分になりながら笑顔を浮かべる。
その様子を見て、ロレーヌは満足そうに頷くとティーカップに口をつける。リッカも席に戻り食事を再開させた。エルナはそんな二人を交互に眺め、どうしたものかと戸惑っていたが、やがて席につき、再びパンを手に取った。
しばらくの間、三人は黙って食事を続けた。時折、ロレーヌが思い出したようにリッカに語りかける。そのほとんどは、リッカに対するお小言だった。