新人魔女とお姉様(4)
さすがにこれまでの階級意識をすぐに変えることは難しいだろう。しかし、それがエルナにとっての貴族教育の第一歩だった。
エルナに課せられる教育は多岐にわたるが、その中には高位貴族としての礼儀作法もある。言葉遣いはもちろん、仕草や服装に至るまで、これからのエルナに求められる振る舞いは様々だ。
ロレーヌは俯く養女を見つめながら笑みを浮かべて、エルナの反応を待っている。それは一見すると優しげな笑みだが、その瞳には厳然とした光があった。新しく娘となったエルナを決して甘やかさない。スヴァルト家の娘として相応しい振る舞いを身に付けさせる。そんな決意がそこにはある。
リッカは項垂れるエルナを見ながら、何とか助け舟を出そうと口を開きかけた。しかし、それより早くエルナは顔を上げる。その表情には決意の色があった。
「分かりました。私が皇太子妃となりました時には、必ずお義母様の仰るとおりに致します。しかし、今はご容赦くださいませ。私はまだスヴァルト家の養女。お義父様、お義母様に礼儀を欠くような振る舞いは致しかねます」
エルナは毅然とした態度でロレーヌにそう告げると、深々と頭を下げた。そんなエルナにロレーヌは一瞬目を見張るが、すぐに穏やかな表情を見せる。そしてゆったりと頷いた。
「結構よ。なら、少しずつ慣れていきなさい」
ロレーヌの言葉にエルナはホッと安堵すると、顔を上げて嬉しそうに微笑み返した。そんな二人の様子を見て、リッカもまた顔を綻ばせる。
「ありがとうございます。お義母様。スヴァルト家の養女として、必ず恥ずかしくない貴族となってみせます」
エルナが可憐な笑顔を見せる。しかし、その目に宿るのは強い決意と覚悟の光だった。その言葉にロレーヌは満足そうに頷く。
「……ふふ。期待しているわ、エルナ」
エルナは決意を胸に、再び頭を下げた。
リッカは席を立ち、エルナの席へ歩み寄ると、固く握られたその手にそっと触れる。リッカの掌から温もりが伝わった。エルナが顔を上げてリッカを見る。視線が合うと、リッカはニカっと笑って見せる。その笑顔にエルナの緊張は解れていく。
そして、エルナもまた微笑み返すと、手を離して立ち上がった。そしてスカートの裾を持ちあげて一礼する。その仕草はとても美しく気品に溢れていた。
「リッカ様にもご挨拶が遅れてしまいました。これからは姉妹として仲良くしていただけると嬉しいです」
エルナはそう言うと、軽く腰を落とす。