新人魔女とお姉様(2)
「お母様、おはようございます」
「お、おはようございます。ロレーヌ様」
リッカとエルナが母、ロレーヌに声をかけると、母も優雅な微笑みを浮かべ挨拶をした。
「おはよう。二人とも」
リッカは自身の正面の席をエルナに勧める。二人がそれぞれの椅子へ座ると、タイミング良く食事が運ばれてきた。スープやパン、サラダが並べられる。食事の準備が整うと、使用人達は自分達の仕事があるためかそそくさと部屋を出て行った。
「さぁ、いただきましょう」
居心地悪そうにキョロキョロと周りを見回すエルナにリッカが声をかけると、エルナはぎこちなく頷いた。
「え、えぇ……」
頷く声は緊張からか、若干震えていた。リッカはそんなエルナの姿に小さく笑うとパンをちぎる。リッカの動きにつられるようにエルナもパンをちぎり口へと運ぶ。咀嚼すると、緊張で強張っていた顔が綻んだ。
「このパンはとても美味しいですね。ほんのりと甘さがあって……。それにとても柔らかい。どうやって作っているのかしら?」
調理方法を聞こうとエルナが使用人の姿を探して辺りを見回す。そんなエルナの姿にリッカは自然と笑みがこぼれた。すぐには使用人目線は抜け切らないようだ。
リッカの視線に気がついたエルナは照れ笑いを浮かべると、スープ皿を引き寄せ、スプーンをつけた。スープの味わいを堪能する。エルナの仕草は、その一つ一つがとても丁寧で綺麗だった。
一口食べたところでエルナは何やら考え込む。そして意を決したように今度はサラダに手を伸ばす。これもまた優雅に口元へ運ぶと口へ含んだ。
リッカはその所作を見て感動を覚えた。リッカも普段、それなりに気をつけているつもりだったが、ここまで丁寧に食事をとっている者を見るのは初めてだった。エルナの食事の仕方にはどこか気品がある。優雅であり、女性らしいたおやかな動きにリッカは思わず見惚れてしまう。
エルナは一通り味わうと、まだ食べ終わっていないリッカに向かって満面の笑みを浮かべた。その笑顔に思わずドキッとしたことは内緒である。リッカは、エルナに見惚れていたことを隠すように、口を開いた。
「ところでエルナさん。いつ、こちらへいらしたのですか? 昨日の夕食時はまだいらしていなかったでしょう」
「昨夜遅くにです。仕事の引き継ぎと、自室を引き払うのに思いの外、手間取ってしまって……ですが、ロレーヌ様が遅くても待っていて下さると仰られたので、お言葉に甘えてしまいました」