新人魔女の休職相談(8)
リゼは表情一つ変えずに告げた。リッカは、王宮での大賢者の仕事を初めて知った。そして、自分がこれまでどれだけ無知であったかを改めて思い知らされる。
そんな重要な役割を担いながらも、彼は日々魔法の研究に勤しみ、新たな魔法を作り出すことに没頭していたのだ。リッカは師匠の仕事を垣間見て小さなため息をついた。
「大賢者様って、大変だったのですね……」
リッカが呟くと、リゼは鼻をフンと鳴らした。
「どれも面倒なだけで、そう大変な作業ではない。それにこれからは助手が代わりにやってくれる」
リゼの言葉にリッカは一瞬固まったが、すぐに目を輝かせる。それから、瞬時にその事実に気づき、少し気まずそうに口を開いた。
「で、ですが、わたしが大賢者様のお仕事をしてもよろしいのでしょうか?」
「私が認めているのだ。構わないだろう」
リゼは、呆れたように肩を竦めた。しかし、その表情はどこか柔らかだった。
「では、これを頼む」
リゼがリッカへ空の魔石が入った袋を手渡す。リッカは大きく頷いた。
「はい、お任せください!」
その顔はいつになくやる気に満ちていた。それはそうだろう。本来は大賢者のみが行う仕事を任されたのだ。それはつまり、リゼは口では厳しい事を言いつつも、やはり自分を認めてくれているのだとリッカには感じられたからだ。
気合いに溢れたリッカの返事に、リゼは苦笑いを浮かべた。
「まぁ、ほどほどにやってくれ。無理はするな。余裕がなければこちらへ戻して構わない。あとは私がどうにかしよう」
リゼの言葉にリッカは首を横に振る。
(大賢者様の仕事を任せてもらえたのだもの。それも難しい事じゃない。わたしにも出来る仕事だ。絶対に終わらせてやるんだから!)
リッカはやる気に満ちていた。もちろん、貴族教育と両立しなければならないことは承知している。しかし今のリッカにとっては、師匠に頼まれた事を成し遂げることが何よりも重要に思えた。
リッカは受け取った袋を大事に胸に抱え、満面の笑みを見せる。
「わたし、絶対にやりますから!」
リゼはそんなリッカに、呆れ顔で言った。
「……分かった、分かった。但し、いいか。くれぐれも貴族教育を疎かにするな。君の出来次第では、君の将来どころかエルナさんの将来にも関わって来るのだからな。分かったか?」
何よりもエルナ優先の姿勢を崩さない師匠に今度は弟子が苦笑する。二人は自身の欲に忠実な似た者師弟だと、使い魔がこっそりと頭を振った。