新人魔女の休職相談(7)
リッカが渡された羊皮紙を見ると、そこには必要な加工魔石の種類が書き付けてあった。
「見たところ、必要なのは魔力供給不要の生活魔法用のようですが……」
加工魔石には、魔力を込めて使用するタイプのものと、魔力供給をせずに特定の属性魔法のみを展開するタイプのものがある。そして今回依頼されているものは後者のようだった。
魔法石とも呼ばれる加工魔石は、非常に便利な代物だ。使用方法は至って簡単で、魔法を封じ込めた魔石を使うだけで、その魔法を使用することが出来る。これは基本的には生活魔法として認知されている。低位の魔法しか使うことが出来ないが、それでも魔法を使えない者にとってこの加工魔石は、主に生活用品や日用品として重宝されている。火を起こす際に火属性の加工魔石を使用すれば、簡単に火をおこすことが出来るからだ。魔法の才能に乏しい者にとっては生活必需品と言えよう。
「空の加工魔石がここにある。魔力充填の方法は分かっているな?」
リッカは頷く。魔力充填は基礎中の基礎だ。魔法陣の上に空の魔石を置き、魔法陣に魔力供給を行えば良い。
実に簡単なことだが、魔法を使える者にとっては、無用な行為でもある。魔石を使用しなくても、水も火も簡単に扱うことが出来るのだから。
しかし、加工魔石が便利なのも事実である。魔石に触れれば充填されている分の水や火が使用出来るため、魔法が使えない者にとっては、水場へ水を汲みに行ったり、わざわざ火おこしをしたりする必要がなくなるのだ。
充填分の魔力が無くなれば魔法石は使えなくなり、再度の魔力充填が必要になる。その際は、魔法が使える者に魔力充填を依頼しなければならないが、水汲みや火おこしをするよりは面倒が少なくて済む。
こうした魔力充填は、魔力量が少なく魔物討伐隊に加われない魔法使いや、工房を持てない者が、生業としていることが多かった。
「大賢者様ともあろうお方が、魔力充填を請け負っていらしたのですか?」
リッカが驚きに眼を丸くすると、リゼは眉間に皺を寄せた。
リゼが魔石に魔力を充填している姿を思い浮かべてみる。リッカの想像の中のリゼがせっせと魔石に魔力を注ぎ込む姿がどこか滑稽に見えてしまい、リッカは思わず笑いそうになって、慌てて口を手で押さえる。
「王宮の魔石への魔力充填は、大賢者が請け負うと定められているのだ。魔力充填だけではない。王宮で必要とされる魔法の力は、その全てを大賢者が賄っている」