新人魔女の休職相談(6)
「王族を輩出した貴族家は、貴族社会において優位的立場となる。家が力を持つのだ。そうなると、今まで以上に他の貴族たちから妬みや嫉みの対象となる。利を求めて擦り寄って来る者もあろう。貴族という者は、多かれ少なかれ利害関係で動く。だからこそ、近寄って来る者皆にある程度の警戒心を持たねばならぬ。それは、君の言うそれなりの社交術でどうにかなるものなのか?」
リゼが述べると、リッカは「うぅ……」と呻いた。
「君のご両親は、その点まで考慮して私の提案を受け入れているはずだが、君はどうだったのだ?」
「……そこまでは考えが及んでいなかった……です」
「当然であろうな。君の歳では、まだ社交場の経験はさほどなかろうから」
リッカは反論できなかった。確かに、これまで自分は貴族の社交の場に出たことがほとんどない。これまでの経験値など、両親の後について、貴族令嬢として軽やかに挨拶をするくらいのものだ。貴族社会での立ち回りなど、はっきり言って全く分からない。
「だからこそ、君は貴族教育をやり直し、早急に社交術を身に付けるべきなのだ。本来ならば、ゆっくりと社交の場に慣れて行けば良かったのだろうが、君は既に次期当主と定められたのだから」
リッカはしゅんと肩を落とした。リゼの言う通りだった。
「そもそも、これは君が計画を無視した代償だ。計画通りに事を進めていれば婚約の話が白紙になり、改めて妃選びが始まることにはなってもこれほど過密スケジュールで動くことにはならなかったものを」
「えっ!? そ、そうなのですか!?」
リッカは驚愕する。呆然としていると、リゼは呆れたように大きくため息を吐いた。
「だから、貴族教育を急ピッチで受けなければならないのは、君が自分で蒔いた種だ。諦めなさい」
リゼにはっきりと言われ、リッカはさらに項垂れるしかなかった。自分の行動が浅はかだったと反省するしかない。
「うぅ……」
リッカが肩を落としていると、リゼはまた一つため息を吐いた。
「そんなに仕事がしたいと言うなら、貴族教育を受ける傍ら、空いた時間で仕事をすれば良いだろう。ちょうど王宮から加工魔石の充填依頼を受けている。かなりの数なので面倒に思っていたのだが、君が仕事をしたいと言うのであればちょうど良い。君にこの依頼を任せるとしよう」
「ま、魔石充填ですか?」
リゼの提案にリッカは顔をあげる。リゼは、机の上にあった羊皮紙とペンを取ると、さらさらと何かを書いた。