新人魔女と精霊のペンダント(3)
そう言って、エルナは持っていた鞄の中からガラスの小瓶を取り出した。リッカはそれを受け取ると中身を確認する。小瓶の中には、七色の光を放つ粉が少量残っていた。先ほどリゼが作り上げた小瓶の中身と同じものだろう。
リッカは小さく頷くと、席を立つ。机の上に置いてあった小瓶と空の小瓶を入れ替えるようにして、新しい方を手にする。
瓶一杯に詰まった中身は、一見すると七色の粉にしか見えないが、これは魔法薬の一種だ。魔力を安定させる効果がある。
日常的に魔法を使う者は、魔力の制御方法を学んでいるためあまり必要としないが、魔力をまだ上手く扱えない幼い子や、なんらかの理由で一時的に体内の魔力の流れが乱れてしまった人に使用する。
また、リゼのような膨大な魔力量を有している者が制御薬として用いることもあると聞いたことがあるが、そもそも自身で制御しきれないほどの魔力を有すること自体が稀なので、魔力を扱う者がこの薬を服用することはあまりない。
つまりエルナの主である今回の依頼者は、魔力の制御をしなければならない人ということになる。しかしこの薬、あまり需要がないため、街中では手に入れることが難しい。
そのため、この薬を必要とした時は、こうして魔術工房に直接薬の生成を依頼しなければならない。
だが、さすがは大賢者であるリゼが作った薬だ。これほど綺麗なものは滅多に手に入らないだろう。おそらく、相当な高級品だ。
「こちらのお薬ですね」
リッカは、リゼの作った薬をエルナに渡した。エルナは受け取った薬を見て、ホッとしたように微笑むと、その瓶を大事そうに鞄にしまう。
エルナの様子を見ていたリッカは、思い出したかのように口を開いた。
「そう言えば……この薬代っておいくらなんでしょう? ネージュ・マグノリアからはお渡しするようにとしか聞いていなくて、お代のことは……」
リッカの言葉を聞いたエルナの顔色も曇る。どうやら彼女も知らないようだ。
「ごめんなさい。私も新しいお薬を受け取ってくるようにとしか……」
二人は困った顔を見合わせる。しかし、それも一瞬のこと。
「仕方ありませんね。とりあえず、後払いということにしておきましょう」
「でも……」
「気になさらないでください。きっと、ネージュ・マグノリアはこうなることも予測済みですよ」
「そ、そうですか……?」
エルナは少々困惑気味だったが、リッカは笑顔で頷いた。
「では、こちらに受け取りのサインをお願いします」