新人魔女の休職相談(4)
「そのままの意味だ。彼女はあのあと王宮に留まった。もしかしたら今頃は君の家かもしれないが」
リゼの言葉にリッカは頷く。
「はい。母からは、今日にもエルナさんが我が家へ来るかもしれないと聞いています。そのあとは、戴冠式まで貴族教育を受けると」
リッカの言葉に、リゼは目を細める。
「そうか。まぁ、エルナさんには貴族教育など必要ないと思うがな。既に完璧な人だ」
リゼはふっと笑みを漏らした。相変わらずエルナのこととなると優しい顔になる。
「まぁ、戴冠式までとなると日がないからな。もうこちらの工房へ来ることはないだろう」
そう言って視線を逸らしたリゼの顔はどこか寂しげだ。
(やっぱりエルナさんが居なくて寂しいんだ……)
そこでふと、リッカは名案を思いついた。
「それなら、リゼさんも戴冠式まで我が家へいらしたらいかがですか? そしたら、毎日エルナさんに会えるので、寂しくないですよ!」
リッカの言葉にリゼは一瞬固まると、心底驚いたという顔をした。それからすぐに答えを口にすることはなく黙り込んでしまう。
しばし逡巡するような沈黙が流れた後、リゼは静かに答える。
「……いや、遠慮しておく」
「そうですか……」
リゼがそう言うなら仕方がない。いい案だと思ったが、要らぬ世話だったようだ。リッカががっかりしていると、リゼはボソリと呟いた。
「居座ってはエルナさんの邪魔になるだろうしな」
リッカにはリゼがなんと言ったのか聞こえなかった。
「え? 今なんと?」
「なんでもない。独り言だ。それよりも、君は、思ったことをよく口に出す癖を治した方が良いな」
リゼがそう言うと、リッカは、苦笑いをしながら頭をかいた。
「すみません、つい……」
リゼは呆れ顔でリッカを見る。
「本当に気をつけなさい。いつか大きな失敗をしてしまうぞ」
「はい、気をつけます……」
リッカは割とお喋りな方だ。もちろんいつもというわけでもないのだが。リッカが萎縮して俯いていると、リゼが声を掛けた。
「それで、君はこれからどうする? 工房へ来たということは、通常通り作業をするということで良いか?」
リゼが尋ねると、リッカは「あっ」と声を上げる。
「実はわたしもエルナさんと一緒に貴族教育を受け直すよう、両親から言われたのです。それで今日は、これからのお仕事の相談に……」
リッカがおずおずと告げると、リゼは頷く。
「そうか。まぁ、陛下に謁見した時のあの様子では、宰相たちが心配するのも無理ないだろうな」